九州大学は、同大大学院人間環境学研究院の山口裕幸教授と、人間環境学府博士後期課程3年の宮島健氏らの研究グループが、日本において20代~40代の男性の多くは「男性の育児休業」を肯定的に捉えているにもかかわらず、同年代の他の男性が抱いている「男性の育児休業」に対する考えを実際よりも否定的に思い込むことが、育児休業の取得を抑制していることを明らかにしたことを発表した。この成果は9月20日、科学雑誌「Frontiers in Psychology」オンライン版で公開された。
日本では、かつては「男は仕事、女は家庭」という性役割分業的な価値観が優勢であったが、近年ではそうした考え方が薄れてきている。しかし、男性の育児休業取得率は低迷している。男性の価値観が変化しているにもかかわらず、取得率が伸び悩んでいる理由についてはわかっていなかった。
研究グループは、育休取得率の低迷の一因として、社会心理学的現象である「多元的無知」(多くの人々がある特定の価値観や意見を受け入れていないものの、"自分以外の他者はそれを受け入れているのだろう"と誤って思い込んでいる状況)に着目。20代~40代の日本人男性を対象としたWeb調査によるデータ収集と統計的分析を用いて、男性の育児休業との関連性を検討した。
その結果、多くの男性は、自分よりも他者の方が男性の育休に対して否定的だと推測しており、「自分も他の男性も育休を肯定的に捉えている」と回答した人々(自他ポジティブ群)と、「自分は肯定的だが、他の男性は否定的だろう」と回答した人々(多元的無知群)とで「取得願望の強さ」(どれくらい取得したいか)に差はみられなかった。しかし、「実際に子供が生まれたときの取得意図(実際に取得するかどうか)」は、多元的無知群の方が低いことが明らかになった。つまり、取得願望は高いにもかかわらず、他者が育休に否定的だと思い込むことで取得を控えてしまう傾向があると示された。
この研究結果は、日本における男性の育休取得率の低迷に多元的無知が関与しているという新しい視点を与えた。男性の育休取得率の改善に向けた方略を策定する上で、役立つ知見であると期待される。