理化学研究所(以下、理研)は、細胞を壊さずに細胞の「濡れ性」を評価する新たな装置を開発したと発表した。

同研究は、理研生命システム研究センター集積バイオデバイス研究ユニットの田中信行研究員、田中陽ユニットリーダー、北川鉄工所の春園嘉英係長、那須博光氏らの共同研究チームによるもので、同研究成果は、日本の科学雑誌「ROBOMECH Journal」9月19日号に掲載された。

培養細胞の非接触濡れ性評価。上段は、実際の実験の様子、下段は、空気を噴射する前(左)と噴射した後(右)のマウス骨格筋芽細胞株C2C12の顕微鏡写真。(出所:理研プレスリリース)

培養細胞などを使った再生医療において、培養細胞が対象の組織や臓器と同等の機能を持っているかを評価するには、これまで細胞から遺伝子やタンパク質などのターゲットとなる物質を検出し、それが対象と同じ量含まれているかを調べていた。この手法は多くの場合、細胞を壊したり特殊な試薬を反応させたりする必要があるが、培養細胞を壊さずに機能評価できれば、高機能な培養細胞を選び取って治療に使うことも可能となる。

同研究チームは、細胞の物性が表面にある物質によって異なることを利用して、培養細胞の機能評価ができると考え、固体表面に対する液体の親和性を表す「濡れ性」という物性に着目した。濡れ性評価の手法としては、対象の物質表面に液体を1滴付着させ、表面と液滴のなす角である「接触角」を計測するのが一般的だが、細胞は培養皿底面上かつ培養液中で培養されるため、接触角指標での評価は困難である。そこで、培養皿底面の培養細胞を覆っている培養液に対して空気を噴射した際に、空気の流れによって液体(培養液)が外側に除去される現象に着目し、この除去領域の大きさを指標にして、濡れ性を評価した。

同研究チームは、半導体製造工場などで使われるパーティクルフィルタを利用してクリーンエアを噴射する「非接触濡れ性評価システム」を開発。このシステムでは、培養環境に入るゴミや微生物を完全に除去することができる。大きさはクリーンベンチや安全キャビネットに設置可能なサイズとなっており、また、計測作業の省力化や液体除去を自動的に数値化することにも成功し、細胞培養を取り扱う研究者や技術者にとってユーザフレンドリーな構成となっている。実際に、このシステムでマウス骨格筋芽細胞株の培養細胞を調べたところ、濡れ性の評価が可能であり、かつ物理的な破壊や糖代謝の変化、細胞膜傷害が起こらないことが確認された。

今後は、濡れ性による培養細胞の機能評価を進め、細胞表面のタンパク質発現が変化することが知られているiPS細胞やES細胞といった幹細胞分化や細胞のがん化などを対象とする予定となっている。また、広く一般材料においても、これまで評価が困難であった、もともと濡れた状態での濡れ性評価に取り組む予定だということだ。