9月6~8日(米国時間)の3日間、シーメンスPLMソフトウェアは、米国ボストンでアナリスト向けのイベント「Siemens Industry Analyst Conference」を開催した。
全体を通して、同社が提唱している「デジタル・ツイン」の構築により、製品のライフサイクル全般を通じて、いかに「デジタル・スレッド」を実現するかがテーマとなった。その中でも、昨年買収を発表した電気系ツールベンダ大手のMentor Graphicsとのシナジーへの期待に応える形で、機械系と電気系の開発、設計、製造プロセスの統合に触れる内容が多かった。
直近では、Mentorのワイヤーハーネス機能とTeamcenterが統合された。これは航空機業界のニーズに応えたもので、約1年前から開発を行ってきた。今後自動車業界にも広がると見ている。
Siemens PLM Software社長兼CEOのトニー・ヘミルガン氏は「例えばデンソーはMentorのユーザーでもあり、今後の統合に関して非常に喜んでいる」と市場の期待の高さを示した。一方で、「Mentorとの統合は、これからの道のりでまだまだやるべきことがたくさんある」と述べており、統合作業は始まったばかりと言える。
そんな中、同カンファレンスでは、今年11月に電気分野の製造エンジニアリング向けに新製品をリリースすることが発表された。新製品はPLCコードの自動生成ができ、MESの機能もサポートするものとなる。2018年初めには品質管理の機能もサポートする予定だ。
また、製造ラインでの人のオペレーションのシミュレーションも開発中で、将来的にはロボットによる製造オペーレーションのシミュレーションも視野に入っている。
電気製品の製造分野向けソリューションでは、製造プロセスと生産システムの「デジタル・ツイン」を構築し、1つのツールで製造エンジニアリングの仕事に対応できるようにする。Teamcenter Manufacturingで管理されるデータがバックボーンとなり、エンタープライズレベル、マルチサイトでの仕事に対応する。
製造の現場では、多くの異なる機械が使用されており、それぞれに異なるデータフォーマット、インタフェースを有している。現在、これら機械をつなげてデータを収集し、使用し、送信することが大きな課題となろうとしている。このような機械をつなげて、プラグ・アンド・プレイで稼働するために「工場のデジタル・ツイン」を作成する必要があるという。また、MindSphereで収集したデータや製造ノウハウを設計にフィードバックする「クローズド・ループ」により、製造プロセスの設計段階でシミュレーションして最適化する姿を描いているとする。
この背景には、従来からのシーメンスPLMの顧客ベースである航空機や自動車のような業界において製品の中に電気の要素が増大していることがある。さらにソフトウェアも含めて製品の複雑さが増している。また、Googleやアマゾン、Facebookのように自社ビジネス用のチップを必要とする企業も出てくるなど、新しいビジネス分野も登場している。
「半導体分野に注目している。Mentorの買収には満足している」とSiemens PLM Software、産業別戦略担当副社長のカーク・ガットマン氏が述べる理由はここにある。Mentor Graphics社長兼CEOのウォーリー・ラインズ氏も半導体分野が成長すると見ている。「これまで機械のロジックを半導体に置き換えることで成長してきたが、その時代は終わった。しかし最近、機器の中で使われる半導体の数が増えたことで右肩上がりとなっている。半導体産業はまだまだ成長する」と述べている。
また、EDA分野は検証の数が多く、製品の複雑さが増したことで「検証が難しくなってきている」とラインズ氏は述べている。さらにデータ量が増えることで人工知能(AI)のインパクトが大きくなるとしている。
人工知能に関してガットマン氏は、多くの分野で使うことができ、良くなっていくと見ている。「人が人工知能をどう理解するかが重要。成功するためには人材を考える必要がある」としている。また「すでに我々は多くの特許を保有している。今後は設計分野にもそうした知見を拡大していきたい。人工知能への対応も強化していく」と方針を示した。
なお、Siemens PLM Software社長兼CEOのトニー・ヘミルガン氏は「今の製造業は機械と電気の壁がなくなっている。ソフトウェアも含めて製品が複雑になっているが、当社の製品でカバーできる」とし、「今回紹介しているようなツールを使わない企業は生き残れなくなるだろう」と述べている。