高エネルギー加速器研究機構(KEK)、東京工業大学(東工大)、フランス国立科学研究センター(CNRS)、ピエール アンド マリー キュリー大学などで構成される研究グループは9月15日、一般的に使われている方法で作成されたグラフェンの結晶構造の違いに由来した電子輸送特性の観察に成功し、構造と電子輸送特性を直接関連付ける結果を得たと発表した。
同成果はKEK 物質構造科学研究所の福本恵紀 特任助教、東工大理学院化学系の腰原伸也 教授、CNRS、ピエール アンド マリー キュリー大学のMohamed Boutchich 准教授らによるもの。詳細はオランダの科学誌「Carbon」(オンライン速報版)に掲載された。
理想的なグラフェンは炭素原子1層の厚さをもつ二次元物質であり、高速デバイスなどへの応用が期待されているが、実際に作成されるグラフェンの構造はナノスケールで不均一なため、その構造の違いが電子の運動に影響を与えると予測されており、実用化のためには、デバイスの動作を阻害する構造、また高性能化に利用できる構造を明確にする必要があるとされている。
研究グループは今回、先行して開発していた100フェムト秒の時間スケールとナノメートルの空間スケールで電子の動きが観察できる装置「TR-PEEM」を、CVD法を用いて作られたグラフェンに適用することで、グラフェン上における1層の場所と2層の場所を区別。光吸収により生成した電子が「伝導電子として存在できる時間(寿命)」を観測することで、寿命が1層領域と2層領域で異なることを確認したとする。
この成果について研究グループは、構造と電子輸送特性を直接関連付ける結果であり、グラフェンの電子状態の制御、つまり電子の動きの制御を進展させる成果であると説明。同技術は将来のグラフェン素子作成に向けた重要なツールになるとしており、今後、TR-PEEMを電子・光電デバイス性能評価の技術として確立させることを目指すとしている。