東北大学は9月12日、カーボンナノチューブ(CNT)の新たな構造制御法の開発に成功したことを明らかにした。
同成果は、東北大学大学院工学研究科電子工学専攻の加藤俊顕 准教授、同 許斌 大学院生(日本学術振興会特別研究員)、同 金子俊郎 教授らのグループと、東京大学の澁田靖准 教授らによるもの。詳細は英国科学雑誌「Scientific Reports」(電子版)に掲載された。
次世代エレクトロニクス素材として期待されるCNTだが、ナノチューブの物性はグラフェンシートを円筒状に丸める際の螺旋度に相当する「カイラリティ」によって決定されるほか、原子1個分のズレによって物性が金属から半導体へ変化してしまう特徴のため、産業応用においては、ナノチューブを原子レベルで制御する手法の確立が求められていた。
今回、研究グループは、触媒表面状態制御によるカイラリティ制御合成を目指した研究として、ナノチューブ合成を行う前段階において触媒を高真空下で加熱処理するプロセスを新たに導入。これにより、触媒表面の酸化度が精密に制御可能であることを確認したほか、ナノチューブ合成において、表面の酸化状態により合成されるカイラリティの種類が変化することを発見した。
さらに、詳細な検討を行ったところ、表面酸化度を低下させることで、ナノチューブと触媒との結合エネルギーが増加し、これによりもっとも効率よく合成されるナノチューブの直径、およびアームチェア端からのカイラル角がそれぞれ小直径側、および高カイラル角側へ変化することが理論計算により示され、実験的に得られた結果ともよい一致を示したことから、前処理によるカイラリティ選択性が、触媒表面におけるナノチューブとの結合エネルギーの違いにより発現するものであることが明らかになったとする。
研究グループでは、触媒表面状態は結晶方位と比べて、自由度が高いため、今回開発された手法を活用することで、選択合成が可能なカイラリティの種類を増大できる可能性を秘めていると説明。今後は、ナノチューブの発見から26年が経過した現在においても、未解決である「カイラリティ制御合成」という課題に対し、その解決につながることが期待されるとするほか、ナノチューブを活用したさまざまな高性能電子デバイスの実用化も期待できるようになるとしている。