奥村組とパスコは、地上に電波(マイクロ波)を照射し地表面の状態を観測する合成開口レーダー(SAR)衛星を、シールドトンネル工事における地表面変位測量に活用し、従来の測量機器を使用した方法と同等の精度を確保しつつ、面的に広範囲を計測できることを実証したと発表した。
シールドトンネル工事では、地表面への影響を最小限に抑えるため、シールド機直上やその周辺の地表面変位を監視する必要がある。その手法として、対象箇所に複数の観測点を設け、水準儀やGNSS測量器で測量して変位経過を監視するのが一般的である。しかし、いずれの方法も観測点付近に測量機器や受信機を設置する必要があり、交通量が多い道路や私有地では測量が困難となっている。また、シールド機通過後の地表面変位を継続して監視する場合や変位を面的に把握したい場合、多くの観測点を設けて測量を長期継続する必要があり、多くの時間と労力がかかっていた。
こうした課題を解決すべく、奥村組とパスコは、SAR衛星による地表面変位測量を実際の工事に適用した。 このたび、地表面の変位測量に活用したSAR衛星は、地球を周回しながら地上に向け自らマイクロ波を照射し、その反射波を受信することによって対象物の観測を行うものである。衛星から地面や建物などの対象物を直接観測するため、立ち入りが困難な場所の計測が可能な上、時間や天候などにも左右されにくい。
これらの優位性を生かして、事前に人工構造物など安定して計測可能なポイントを特定し、同点に変位が生じた場合、地球を周回するSAR衛星が受信する反射波に位相差が生じることから、同値を解析することにより変位量(Δd)を算出できる。
この解析により得られる地表面の変位量データを視覚的に捉えるため、変位データの大きさごとに色分けしたメッシュ図やコンター図を表示するシステムを開発した。同システムは、メッシュ図やコンター図に2次元の地図や航空写真、シールド機の位置などを重ね合わせて表示することも可能となっている。
京都市上下水道局発注の下水道工事において、シールド掘進開始から完了までの約1年2ヵ月間に、計画線全長を幅100mにわたり計30回以上の頻度でSAR衛星による計測を行った。同工事における掘進ルートの周辺は、交通量が多く歩道も狭い住宅密集エリアであったが、SAR衛星の活用により、制限を受けることなく多数の観測点によって広範なエリアを面的に計測できた。さらに、SAR衛星による計測成果が、従来の測量方法と同程度の精度を確保できることも確認された。
奥村組とパスコは今後、SAR衛星を活用した地表面変位測量を工事全般へ広く適用することを視野に入れ、今回得られた知見をベースに更なる改良を図っていく構えだ。