9月7日(米国時間)、米国ボストンで行われたSiemens Industry Analyst ConferenceでシーメンスPLMソフトウェアは、同社が持つ広範囲の製品ポートフォリオを活用し、個々の業界の事情に合わせて「デジタル化」、「デジタル・ツイン」を推進し、デジタルスレッドを実現するために、業界別のベストプラクティスを提供するソリューションを強化していくと同時に、これまではサポートしていなかった業界にも拡大していく方針を発表した。

現在、同社は「航空機・防衛」「自動車・輸送機」「電気」「半導体」「コンシューマ・リテール」「エネルギー」「産業機械・重機」「造船・海洋」「医療機器・医薬品」の9つの業界をカバーしている。しかし、個々の業界で求められる要件や、法令・規制、またそれぞれのビジネス状況などの事情が異なっており、そうした業界の事情に合わせて「デジタル化」、「デジタル・ツイン」を推進し、デジタルスレッドを実現するために、業界別のベストプラクティスを「Catalyst」と呼ばれるソリューションとして用意している。

業界別のベストプラクティスをCatalystとして展開

Catalystは3段階に分けられている。

エントリーレベルのレベル1では導入をスピードアップできる内容で、次のレベル2では業界別のワークフローを含めたエンド・ツー・エンドの業界別ソリューションのドキュメント化、最高レベルのレベル3では業界別のデータセットが用意されたすぐに使えるソリューションとなっている。

現在レベル3で提供されているものとして、航空宇宙業界向けの検証管理メソッドのソリューションがある。これは将来的には自動車業界でも使えるものだとしている。

Catalystは、シーメンスPLMだけでなく、パートナーとの協業でも開発を進められている。

シーメンスPLMソフトウェア、産業別戦略担当の副社長を務めるカーク・ガットマン氏は「この1年間でソリューションがかなり進化した。来年には産業機械向けや自動車向け、エネルギー産業向けのソリューションのリリースを予定している」と述べている。

また各業界に共通する課題として、「どの業界も製品を進化させなければならない。ツールは使っているが結びついていない。各工程のピースをつなげ、スレッドにする必要がある」と述べている。

シーメンスPLMソフトウェア、産業別戦略担当副社長のカーク・ガットマン氏

各業界向けのソリューションの動向は次の通り。

自動車業界は、自動運転やコネクティッド・カーなどにより企業の形態が変化してきており、TASS Internationalの買収の効果が高まると見ている。2025年までにCO2排出量の削減、燃費の向上が課題となっており、このためには軽量化が必要になる。従来のやり方では、何度もやり直しを繰り返すことになるが、ジオメトリの関連性の解析、最適化を行うことで100種類のデザインが1~4日でできるとしている。

航空・宇宙業界ではコンポジット素材の部品の導入が進んでいるが、加工が難しいことが課題となっている。加工の際のバラつきを抑えるソリューションを開発中で、特殊なロボットを適用して製造する予定。NXと5軸加工のロボットを連携し、コンポジット部品を立体的に加工するデモが紹介された。

NXと5軸加工ロボットを連携したコポジット部品の加工

エネルギー業界向けには、設計の最適化に使われるソリューションを開発中。これにはCD-Adapcoの買収が貢献している。来年半ばに開発が完了する予定で、エネルギー業界だけでなく航空宇宙業界とのシナジーが期待できるとしている。

医療分野向けでは、人工関節のような患者ごとに合わせたデバイスの設計、製造にアディティブ・マニュファクチャリング技術を適用する。またCAMの精度を高めることが課題で、データを収集し、NX CAMとの連携を進める。このほか個々人の血管内の血流の解析にCFDの技術を活用していく計画。この業界は規制の厳しい業界だが、テンプレートを使用して課題を克服していくとしている。

半導体業界向けはMentorの買収により、ソリューションをより強化できたとしている。現在、新しいソリューションを考案中で、デザインの検証やTeamcenterとの統合をさらに進める計画。「9か月か1年くらいでストーリーができるだろう」とガットマン氏は述べている。

現在の製品は機械、電気、ソフトウェアが融合し、複雑化が進んでおり、半導体の需要がさらに大きくなると見ている。また、GoogleやFacebookなどのような企業では、自らチップを設計するようになってきた。このような状況からも、半導体業界に注目しているとしている。

造船・海洋業界では、海水の流れなどを扱うため、流体解析が必要となる。その点で、CD-Adapcoの買収は良い効果をもたらしているとしている。

産業機械業界向けでは、機械のデータをIoTで収集し、設計へのフィードバック、解析につなげる計画とするほか、電気業界向けでは、設計やPCB工程の改善が必要で、またパッケージを小さくすることが課題と捉えている。

コンシューマ・リテール業界は、これまでになかった分野。現在「Artwork(アートワーク)」と呼ばれるCatalystソリューションを開発している。これは食品の成分などのラベル表示に関するもので、法令で定められた表示などがサポートされる。現在、この作成や変更の多くはマニュアルでの作業となっているが、これをデジタル化されたシングルソースのデータを活用することで、正確性と効率化、透明性がもたらされるとしている。

Artwork用Catalystソリューション

これらのソリューションについては、買収によって機能や対象分野を充実させるだけでなく、研究開発への投資による新技術の開発での拡充も行なっており、そうした取り組みの中には、ユーザーの需要に基づいたソリューションも含まれており、「今までと違う業界にも注力していく。各業界でデジタルスレッドを実現できるようにしていく」とガットマン氏は述べていた。