東北大学は9月14日、抗がん剤の1つであるミトキサントロンが転写因子「GATA2」の活性を阻害することで、腎臓病の症状を改善することを明らかにしたと発表した。
同大大学院医学系研究科の于磊 博士研究員、森口尚 前講師、山本雅之 教授、清水律子 教授らの研究グループ、慶応義塾大学医学部先端医科学研究所の佐谷秀行 教授らとの共同に研究による成果だ。詳細は米国の学術誌「Molecular and Cellular Biology」オンライン版に掲載された。
腎臓病の進行により透析にいたる患者数は年々増加しており、医療費の増加が大きな問題となっている。日本の透析患者数は約32万人で、腎臓病は新たな国民病と言われるほどだ。この進行を防ぐためには、慢性的な炎症の際にコラーゲンなどの繊維タンパク質の蓄積によって腎組織が硬くなってしまうこと(線維化)を抑止することが重要と考えられているが、現時点では有効な治療法は確立されていないという。この慢性炎症による腎臓病の進行には、障害された腎組織で産生される炎症を引き起こすタンパク質が関与していると考えられている。
今回の研究では、遺伝子発現を制御する転写因子「GATA2」が腎臓の特定の細胞に存在し、腎臓病時に集合管上皮細胞からの炎症性サイトカインの産生を促進する機能があることを明らかにした。また、集合管上皮細胞でのみ転写因子「GATA2」を欠失するマウス「G2CKO マウス」を作製したところ、同マウスでは腎臓病誘導時の腎臓線維化を起こしにくいことも判明した。さらに、GATA因子阻害剤のハイスループットスクリーニンングで見いだしたミトキサントロンが「GATA2」の発現を抑制すること、および、急性腎不全モデルマウスの腎臓線維化を抑止することを見出した。
これらの結果は、集合管上皮細胞での炎症性サイトカイン放出に「GATA2」が関与していること、「GATA2」の機能を阻害すれば集合管上皮細胞からの炎症性サイトカイン放出を抑制でき、慢性的な炎症により引き起こされる腎臓線維化を抑止できることを示すものとした。
なお、今回の成果について研究グループでは、これまで有効な治療法に乏しかった腎臓病に対する新規治療法として、ミトキサントロンなどのGATA因子阻害剤の応用が期待されるとコメントしている。