京都府立医科大学は、制御性T細胞低下による免疫制御機構の破綻が子宮内膜症の炎症や増殖を促していることを解明したと発表した。

子宮内膜症病巣では、Tregが担う免疫制御機構が破綻することによって免疫応答が亢進し、局所の炎症や増殖を促進することによって病変が増悪している(出所:京都府立医科大学プレスリリース)

同研究は、京都府立医科大学大学院医学研究科 女性生涯医科学の田中佑輝子病院助教、森泰輔講師、北脇城教授らの研究グループ によるもので、同研究成果は、9月6日に米国内分泌学会雑誌「Journal of Clinical Endocrinology and Metabolism」オンライン速報版に掲載された。

子宮内膜症は性成熟期女性の約10%に発生するが、その発症および進展メカニズムは長らく謎とされ、未だ根本的な治療法は確立されていない。制御性T細胞(Treg)は免疫応答を抑制し、免疫自己寛容に必須の細胞である。子宮内膜症患者の月経周期では、分泌期でTregのkey markerであるFoxp3発現が増加することから、Tregの増加による免疫寛容が子宮内膜の異所性着床を促すのではないかと考えられてきた。一方、子宮内膜症病巣局所ではeffector T細胞や炎症性サイトカインの増加により免疫応答が起こっている。この免疫寛容と応答が同時に同部位で生じている矛盾は謎とされてきたが、近年、Foxp3陽性のTregには免疫抑制能を持たない細胞も含まれると報告され、Foxp3とCD45RAで分画されるCD45RA陰性かつFoxp3強陽性細胞(activated Treg)こそが真の免疫抑制能を有すると実証されている。そこで、同研究グループはこのactivated Tregに注目し、子宮内膜症における免疫制御機構について検討した。

まず同研究グループは、子宮内膜症および非子宮内膜症患者から血液・腹水・正所性子宮内膜・子宮内膜症病巣の一部を採取し、Tregの分布状態について検討したところ、真の免疫抑制能を有するactivated Tregは、子宮内膜症患者の正所性子宮内膜および子宮内膜症病巣では非子宮内膜症患者と比し有意に減少していた。一方、血液や腹水検体間では有意な差は認められなかった。また同一患者での臓器別分布について検討したところ、子宮内膜症患者におけるactivated Tregは子宮内膜、血液、 腹水間ではほぼ同様の分布を示したが、非子宮内膜症患者の子宮内膜においてactivated Tregは血液や腹水中よりも有意に増加していた。

次に、子宮内膜症病巣におけるactivated Treg低下の意義を検証するため、子宮内膜症モデルマウスを作成したところ、Tregが減少しているFoxp3DTR/DTマウスではコントロールと比較し、嚢胞性病変の数および重量の増加や増殖能の亢進が認められた。さらに、マウスの嚢胞性病巣局所において、マクロファージの誘導や子宮内膜症病巣で特異的に分泌している炎症性サイトカインや血管増殖因子(VEGF)の増加が認められた。以上より、Tregの減少はマクロファージやeffector immune T細胞を活性化し、局所の炎症性サイトカインや血管新生因子を増加させることで子宮内膜症の進展に寄与すると考えられるという。

同研究により、子宮内膜症病巣では、Tregが担う免疫制御機構が破綻することによって免疫応答が亢進し、局所の炎症や増殖を促進することによって病変が増悪していることが明らかになった。これは、これまで免疫応答と免疫寛容が同部位で生じると考えられてきた子宮内膜症発症進展メカニズムにおける矛盾点を一気に解決しうる可能性がある。Tregが及ぼす免疫機能を活性化あるいは不活化することで、子宮内膜症における新たな治療法や予防法の確立が期待されるということだ。