物質・材料研究機構(NIMS)は、電圧でなく磁気でイオンを輸送するという、従来と全く異なる原理で動作するトランジスタの開発に成功したと発表した。
同研究は、NIMS国際ナノアーキテクトニクス研究拠点の土屋敬志主任研究員、寺部一弥グループリーダー、機能性材料研究拠点の井村将隆主任研究員、技術開発・共用部門の小出康夫部門長によるもので、同研究成果は、日本時間9月5日にNature Publishing Groupが発行する「Scientific Reports」オンライン版に掲載された。
電気エネルギーと化学エネルギーを変換する電気化学デバイスは、電池やキャパシタ、センサーなどとして実用化され、我々の生活の中で幅広く利用されている。これらのデバイスは、電解質中のイオンを移動させることで動作しているが、イオンの駆動には電圧を印加する必要があるため、電力源が確保できない環境では利用しづらいという問題がある。
そこで同研究グループは、磁性イオン液体(1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムテトラクロロフェラート)に注目。磁性イオン液体は、これまで「液体の磁石」として研究されてきたが、電荷を持ったイオンとしての性質は注目されていなかったという。同研究グループは、磁性イオン液体を「磁石をつかってイオン輸送が可能な液体」としてとらえ、これを電解質として用いた電気二重層トランジスタを作製した。磁場をかけると、電解質中の磁性イオンが移動して電極間の抵抗が変化することが分かり、磁場のみでトランジスタとして動作させることに成功したという。
このトランジスタは、動作させるのに電圧を印加する必要がないため、省エネルギーで新しい機能を持った情報通信デバイスなどの開発につながると期待されるという。また、今回は電磁石を用いて磁場をかけたが、これを永久磁石に置きかえることができれば、省エネルギー情報通信デバイスなどへの展開が期待できる。今後は、同成果を基に情報通信デバイスへの応用を進めるとともに、電池やキャパシタなどトランジスタ以外の電気化学デバイスについても、外部電源に依存しない制御を目指した研究を進める予定とのことだ。