北九州市立大学は、花崗岩深部でマグマ由来のメタンに依存した微生物生態系が存在することを明らかにしたと発表した。
同研究は、東京大学大学院理学系研究科の鈴木庸平准教授らの研究グループと、日本原子力研究開発機構、 産業技術総合研究所、名古屋大学、北九州市立大学、茨城高専、海洋研究開発機構、カリフォ ルニア大学バークレー校との共同研究によるもので、同研究成果は、9月8日付で「ISME Journal」に掲載された。
光合成により生産された有機物と酸素に満ちた地上とは異なり、地底は生物に必要な栄養素が欠乏しているため生命の存在しない「死の世界」と考えられてきた。一方、岩石中には鉄分が多く含まれる場合、鉄分と水が反応して水素が発生し、水素をエネルギー源とした化学合成に基づく地底生態系が存在する説も提唱されている。しかし、その実態については不明な点が多く、地底深部の大部分を占める鉄分に乏しい花崗岩に、光合成由来のエネルギーが表層から届かない場合は、微生物生態系は存在しないと考えられてきた。
同研究グループは、瑞浪超深地層研究所の地下深部の花崗岩から、深度300メートルの地下水を採取し、地下微生物の生態系を調査した。その結果、光合成由来の有機物がほとんど含まれないにも関わらず、硫酸呼吸や放射性元素のウランで呼吸する微生物が生息していることを明らかにした。さらに、地下水中に生息する微生物の種類と硫酸で呼吸するためのエネルギー源を特定するために、微生物の全ゲノム解析を実施したところ、メタンをエネルギー源とする微生物が主要な生態系の構成種であり、メタンを酸化するために硫酸で呼吸し、硫化水素を生成していることも明らかとなった。メタンは花崗岩を形成したマグマに含まれていたもので、生態系は光合成由来のエネルギー源に依存していないと判断されるという。
今回の発見は、光合成由来のエネルギー源に依存しない生態系が広大な地下空間に存在し、マグマ由来のメタンをエネルギー源とした巨大なバイオマスが、地底に存在する可能性を示すものとなる。共通祖先に近縁な微生物は生態が全くわかっておらず、地上は地底と大きく環境が異なるため、地上に回収して培養することもできない。今後は、岩盤中に栄養を加えて地底で培養を行い、地底での生態と進化を明らかにする予定だという。また、マグマ由来のメタンが硫化水素を生成することから、放射性核種の移動を抑制する地下水水質が形成されていることも示された。したがって、地底生命の代謝活動により、高レベル放射性廃棄物地層処分の安全性が高められると期待されるということだ。