カーネギー研究所の研究チームは、原子配列の秩序が乱れた「アモルファスダイヤモンド」を高圧条件下で合成することに成功したと発表した。ダイヤモンドに匹敵する硬度があり、高密度で透明で高い機械強度をもっているという。研究論文は「Nature Communications」に掲載された。
[画像1:(左)規則的な結晶構造をもつダイヤモンド。(右)乱雑な配列をもつアモルファスダイヤモンド。(出所:カーネギー研究所)]
炭素原子は、さまざまなパターンの結晶構造をとることができ、そのパターンの違いによってダイヤモンド、グラファイト、グラフェンなど、物性の異なる多様な種類の炭素同素体となって現れる。
ダイヤモンドの結晶構造は、炭素原子の最外殻電子がsp3混成軌道をとって共有結合するsp3結合である。一方、グラファイトの結晶構造はsp2混成軌道の共有結合であり、sp2結合と呼ばれる。
原子の配列を局所的に見ると結晶構造のような一定の秩序があるようにみえるが、長距離でみると原子の配列が乱れていて結晶構造をつくっていない状態は、アモルファス(非晶質)と呼ばれる。アモルファス状態の炭素材料としてはダイヤモンドライクカーボン(DLC)などが知られている。DLCでは、ダイヤモンドのsp3結合とグラファイトのsp2結合が混在した状態がみられる。
周期表上で炭素と同じ第14族元素であるシリコンやゲルマニウムには、sp3結合だけで構成されたアモルファス状態が存在する。炭素の場合にも、これらと同様に、sp3結合だけで構成されるアモルファス状態、つまりアモルファスダイヤモンドが存在できると考えられてきたが、これまで実際に合成された例はなかった。
今回の研究では、50GPa(ギガパスカル)つまり大気圧の50万倍近い超高圧力下で、アモルファスダイヤモンドの合成を行った。アモルファス状態のsp2結合を主成分とするガラス状炭素を出発材料とし、高圧実験装置ダイヤモンドアンビルセル(DAC)を使ってこれに50GPaの超高圧をかけた。加圧時の温度条件は室温とした。加圧後に、約1800Kの温度でレーザー加熱を行った。加熱は試料が透明になるまで続けた。
この処理によって、純粋なsp3結合で構成されたアモルファスダイヤモンドの合成にはじめて成功した。加熱温度を1800Kに最適化したことによって、より高温で進む結晶化や、より低温でみられるsp2結合からsp3結合への不完全な変換を避けることができたと考えられるという。
今回の実験で用いられた圧力-温度範囲は、これまで炭素材料がダイヤモンドの状態で熱力学的に安定する領域であると考えられていたという。しかし今回の結果から、この圧力-温度範囲で炭素が必ずダイヤモンド結晶になるというわけではないことが明らかになった。今後も、幅広い圧力-温度範囲においてさまざまな前駆体を使った実験を行うことによって、まだ知られていない新しい種類の炭素材料が見つかる可能性があると示唆する結果であるといえる。
ダイヤモンドの場合、切断面は結晶構造に従った規則的な形状になるが、アモルファスダイヤモンドはどの方向にも切ることができるので任意の形状に加工できるなど、ダイヤモンドとは異なる性質をもっていると考えられる。研究チームは今後、アモルファスダイヤモンドの物性について詳しく調べていくとしている。