東北大学は9月6日、がん細胞の代謝活性を測定する新たな手法を確立し、環境因子の変動などによる代謝の変化をリアルタイムにモニターする手法の確立に成功したと発表した。

同成果は、東北大学大学院歯学研究科口腔生化学分野 高橋信博教授、鷲尾純平講師、同研究科顎顔面口腔外科学分野 森島浩允歯科医師らの研究グループによるもので、8月30日付の英国科学誌「Scientific Reports」に掲載された。

がん細胞は、特徴的な代謝を持ち、グルコースから酸を産生し、がん組織の周辺環境を酸性にすることが知られている。しかしこれまで、がん細胞の代謝をリアルタイムにモニターする方法は確立されておらず、また、がん細胞代謝に対する環境pHの影響については不明な点が多くあった。

今回、同研究グループは、がん細胞の代表的な代謝基質であるグルコース、グルタミン、グルタミン酸の代謝活性を、リアルタイムにモニタリングするシステムを構築し、さらに環境pHによる代謝活性への影響の評価を試みた。

具体的には、口腔扁平上皮癌細胞株HSC-2およびHSC-3と、正常細胞株としてヒト表皮角化細胞株であるHaCaTを使用し、pH statシステムを用いて各条件下での代謝活性をモニターした。pH statシステムは、細胞による酸産生に伴いpHが低下しようとする反応液中に、自動的にアルカリ溶液を注入し、設定したpHに維持しようとする機器であり、アルカリ溶液の注入量をモニターすることで細胞の酸産生量の継時的測定が可能となる。グルタミンおよびグルタミン酸については、代謝に伴うアンモニア産生の測定も合わせて行った。

この結果、口腔扁平上皮癌細胞および正常細胞のすべての細胞がグルコース、グルタミン、グルタミン酸を代謝基質として利用し酸を産生していること、そして酸の産生をpH statシステムで測定することで代謝活性をリアルタイムにモニターできることが明らかになった。3種の基質のなかでは、すべての細胞においてグルコースからの酸産生活性が最も高く、pH低下に伴い酸産生活性の低下がみられた。さらに、いずれの細胞もグルタミンからアンモニアの産生が確認された。

同手法は、一般の細胞代謝研究にも応用できるうえ、環境pHを自在に一定に保持できることから、代謝に対するpHの影響の検討にも応用可能であるという。

今回の研究の概要 (出所:東北大Webサイト)