金沢大学は、これまで解析が困難だった脳回(大脳皮質の表面に見られるシワ)ができる仕組みの一端を明らかにしたと発表した。

フェレットの脳回の断面の拡大図。左は正常な脳回の断面で、脳回が突出して見える。右はCdk5を破壊した脳回の断面で、脳回がほとんど突出していない。(出所:金沢大学プレスリリース)

同研究は、金沢大学医薬保健研究域医学系の河﨑洋志教授、新明洋平准教授らの研究グループによるもので、同研究成果は、日本時間8月30日に米国の科学誌「Cell Reports」のオンライン版に掲載された。

ヒトの大脳の表面を覆っている大脳皮質に存在する脳回は、脳の高機能化に極めて重要だと考えられ注目されているが、医学研究に多く用いられているマウスの脳には脳回がないため研究が困難であり、脳回ができる仕組みは謎に包まれている。そこで同研究グループは、ヒトに近い発達した脳を持つ高等哺乳動物フェレットを用いた研究技術を開発してきた。

大脳皮質の断面イラスト。濃青が大脳皮質の表面側、淡青が深部側、黄色の三角は神経細胞を示している。(左図)脳回ができる前には数少なかった表面側の神経細胞が、(右図)時間とともに多くなることにより、脳表面に突出(=脳回)ができると考えられる。(出所:金沢大学プレスリリース)

その結果、ゲノムの狙った部位を選択的に破壊するCRISPR/Cas9というゲノム編集技術と、同研究グループがこれまで開発してきたフェレット大脳皮質への遺伝子導入技術とを組み合わせることにより、フェレット大脳皮質において任意の遺伝子を破壊することに成功したという。また、この技術を用いてCdk5と呼ばれる遺伝子をフェレット大脳皮質で破壊したところ、脳回が異常になることを見いだした。これは、Cdk5が脳回を作るために重要な遺伝子であることを意味している。さらに同研究グループは、大脳皮質のなかで脳回をつくるために主要な役割を担っている細胞を探索した結果、大脳皮質の表面側の神経細胞が脳回を作るために重要であることを発見した。これらの結果を総合すると、大脳皮質の中でも表面側の神経細胞でCdk5遺伝子が働くことが脳回を作るために重要であることが明らかとなった。

今後は、マウスを用いた研究では解明が困難だったヒトの脳に至る進化の過程の解明につながることが期待される。また、ヒトには脳回に異常が見られる疾患があるが、その発症の仕組みはほとんど分かっておらず、今回開発された技術を用いることにより、さまざまな疾患の病態の究明に発展することが期待されるということだ。