理化学研究所(理研)は、自閉症(自閉スペクトラム症)の発症に関与する可能性がある遺伝子として、新たに「NLGN1」を同定したと発表した。

(A)自閉症の兄弟2名で発見されたNLGN1遺伝子ミスセンス変異。(B)自閉症患者で発見された5つの変異型のうち、T90Iを除く4つ発現量が減少。(C)細胞内局在解析では、野生型が細胞表面に強く発現するのに対し、自閉症変異型P89L、L269P、G288Eでは小胞体に局在が変化していた。(D)Nlgn1遺伝子変異マウスでは、ケージに入った他のマウスにアプローチする時間が野生型と比較して減少していた。モリス水迷路と呼ばれる試験においては、Nlgn1遺伝子変異マウスは空間記憶能力に異常を示した。(出所:理研プレスリリース)

同研究は、理研脳科学総合研究センター精神生物学研究チームの内匠透シニアチームリーダー、仲西萌絵リサーチアソシエイトらの国際共同研究グループによるもので、同研究成果は、8月25日付けで米国のオープンアクセス科学雑誌「PLOS Genetics」に掲載された。

自閉症は、社会的コミュニケーションの障害と繰り返し行動、こだわりの強さを特徴とする発達障害のひとつである。自閉症は遺伝的要因が強く関与する疾患で、特定の遺伝子の変異が発症の原因となることが知られている。特に、シナプスに関連する遺伝子の変異が多く同定されていることから、シナプス異常と自閉症の関連が強く示唆されている。例えば、シナプスに存在するNLGN-NRXN-Shank経路のタンパク質の変異には、これまで複数の自閉症候補遺伝子が同定されており、この分子経路の異常は自閉症の発症と強く関連していると考えられる。

同研究グループはまず、自閉症の兄弟2名のゲノムのうちタンパク質をコードしている部分の塩基配列を解読し、兄弟が共通して持っているミスセンス変異を全て抽出した。その中で、健常者のデータベースに発見されず、さらに機能変化予測解析で危険度が高いと予測されたのが、NLGN1上にあるひとつのミスセンス変異だった。また、過去に発表された患者のデータ(約2500家族)に加えて未発表のデータ(患者362人)も調べると、さらに5人の患者が4つのNLGN1上にミスセンス変異を持つことがわかった。

次に、実際に自閉症患者で発見されたNLGN1上のミスセンス変異が、NLGN1タンパク質の機能変化を引き起こしているかを調べるために、培養細胞を用いた発現実験、初代培養神経細胞を用いた発現実験を行った結果、自閉症患者で同定された変異は、NLGN1タンパク質の発現や機能に異常を引き起こすことが明らかとなった。また、変異を導入したモデルマウスを作製したところ、変異を持ったマウスは社会的コミュニケーションや空間記憶能力などに異常を示すことが分かった。

以上の結果は、NLGN1上のミスセンス変異がNLGN1タンパク質の減少など、タンパク質レベルでの異常を引き起こすこと、さらにその異常が自閉症様の行動異常につながることを示していることから、NLGN1は新たな自閉症候補遺伝子であるといえるという。今後、ヒトの患者と同じ変異を持ったマウスの解析を行うことで、NLGN-NRXN-Shank経路を標的とした治療薬の開発や自閉症のメカニズムの解明につながると期待できるということだ。