九州大学は8月29日、極限環境生物である「アーキア」のDNA複製過程に関わる重要因子の機能を解明したと発表した。
同成果は、同大大学院農学研究院の石野良純教授らの研究グループによるもの。詳細は、国際核酸研究誌「Nucleic Acids Research」(オンライン版)に掲載された。
研究グループでは、アーキア(古細菌)のDNA複製・修復・組み換えからなる、遺伝情報維持機構の解明に挑んでいる。アーキアはバクテリアと同様に原核生物でありながら、その遺伝情報システムは我々ヒトなどの真核生物と共通の祖先から進化したと考えられており、アーキアの研究は、生物の複製機構の起原を理解することにつながるという。
特に、超好熱アーキアを研究することで、100℃という極限環境での独自の生命現象の理解が期待される。今回の研究成果の背景には、真核生物でDNA複製進行を担うタンパク質のひとつであるCdc45と、真正細菌でDNA修復・組み換えに寄与するDNA分解酵素RecJのタンパク質組成が一部類似しているという報告と、アーキアにおけるCdc45/RecJに類似したタンパク質の存在があった。中でも、T. kodakarensisという超好熱アーキアにおけるCdc45/RecJは試験管内において、真正細菌のRecJに似た酵素活性を示し、他のDNA複製関連因子によりその活性が促進されたため、真核生物と真正細菌のいずれか、または両方の機能があるのではと注目されていた。
今回、このCdc45/RecJがDNA複製進行装置構成因子であることが分かった。また、真核生物のCdc45とは異なり遺伝子破壊が可能であるが、高温環境になると生育に不可欠であることも判明。そのほか、細胞内の無機元素濃度を定量し、その条件を試験管内で再現した際に真正細菌に似た酵素活性が検出されなかったことから、アーキア細胞内では真正細菌のRecJのような修復機能はないということも分かった。
なお、同成果に対し研究者は、高温環境におけるDNA複製装置の原理解明によって、新たな遺伝子工学技術開発につなげて、人類の健康と社会の繁栄に貢献していきたいとしている。