米国の宇宙企業スペースXは2017年8月25日(日本時間)、台湾の地球観測衛星「福衛五号」を搭載した「ファルコン9」ロケットの打ち上げに成功した。福衛五号は台湾が初めて自力で開発した衛星で、防災や環境監視、国土の安全保障などに活用される。また、今後の台湾の宇宙計画にとっても大きな一歩となった。ファルコン9の打ち上げは今年12機目、通算では40機目の打ち上げとなった。
ファルコン9(Falcon 9)ロケットは日本時間8月25日3時51分(太平洋夏時間24日11時51分)、カリフォルニア州にあるヴァンデンバーグ空軍基地の第4E発射台から離昇した。ロケットは順調に飛行し、約11分後に福衛五号を分離、予定どおりの軌道に投入した。
今回使用されたロケットの第1段機体は新品で、打ち上げから約10分50秒後に、太平洋上に待機していたドローン船「指示をよく読め」(Just Read the Instructions)号に着地した。26日時点で、「指示をよく読め」号はカリフォルニア州の港に向けて航行を続けている。
さらにロケットの第2段機体も、衛星分離後にデブリ化を防ぐため、軌道離脱噴射を実施し、大気圏に再突入し、処分された。
台湾初の純国産衛星「福衛五号」
福衛五号(フォルモサット5号:FORMOSAT-5)は台湾国家宇宙センター(NSPO)が開発した地球観測衛星で、光学センサを使って地表を観測する。台湾初の純国産衛星で、NSPOが中心となり、大学や研究機関などが参加し、台湾で設計から試験まで一貫して開発が行われた(ただし部品の一部は他国製のものを使っている)。
打ち上げ時の質量は475kgで、高度約720kmの太陽同期軌道で運用される。設計寿命は5年が予定されている。
ファルコン9からの分離後、ノルウェーのスヴァールバルにある地上局が福衛五号からの信号を捉えており、衛星の状態が健全であることが確認されている。
福衛五号は、2016年8月に引退した「福衛二号」の後継機として運用される。福衛二号は欧州のアストリウム(現エアバス・ディフェンス&スペース)が製造し、2004年に打ち上げられた。福衛五号は二号より、より細かいものが見られるようになっているなど、性能も向上している。NSPOでは、防災や環境監視、国土の安全保障などに役立てたいとしている。
また、台湾国立中央大学(NCU)が開発した電離層の観測装置も積んでおり、科学衛星としての側面ももつ。
打ち上げ成功を受け、台湾の蔡英文総統は「台湾にとって初めての自主開発衛星である『福衛五号』は、打ち上げが成功したばかりではなく、台湾の地上局との通信にも成功しました。今日から宇宙には台湾の衛星が浮かんでいます。10年以上の努力がついに実を結びました。NSPOと、そしてすべての人々に感謝します」とコメントしている。
NSPOでは現在、福衛五号のほぼ同型機である「福衛八号」の開発や、米海洋大気庁(NOAA)との共同ミッションである、13機の大気観測衛星群(コンステレーション)の「福衛七号」の開発も進めており、福衛五号の打ち上げ成功は、こうした今後の計画にとっても大きな一歩となった。
ファルコン9史上最軽量の衛星打ち上げ
今回はファルコン9にとって、これまでで最も軽い衛星の打ち上げとなった。また、ファルコン9の太陽同期軌道への打ち上げ能力は10トンほどもあり、それにより質量わずか475kgの福衛五号を打ち上げるという、非常に無駄の多い打ち上げでもあった。
もともとNSPOは、2010年にスペースXとの間で福衛五号の打ち上げ契約を結び、当時スペースXが運用していた小型ロケット「ファルコン1」による打ち上げを予定していた。当初、打ち上げは2013年に予定されていたものの、台湾側での福衛五号の開発が遅れ、その間にスペースXがファルコン1の運用を中止することを決定したことから、代わりに大型ロケットのファルコン9で打ち上げられることになったという経緯がある。
打ち上げロケットがファルコン9に変わった当初は、米民間企業のスペースフライト(Spaceflight)が約90機ものキューブサットの相乗りを申し込んでいたが、福衛五号の打ち上げが延期したことを理由にキャンセルし、インドのPSLVやロシアのソユーズ・ロケットでの打ち上げに切り替えたため、最終的に福衛五号のみでの打ち上げとなった。
また、現在のファルコン9の打ち上げ価格は6200万ドルであり、当初の契約額の2300万ドルとは大きな差がある。契約の詳しい内容は非公表のため、この差額をスペースXがかぶることになったのか、NSPOがいくらか追加で支払うことになったのかなど、詳細は明らかになっていない。ただ、宇宙専門紙SpaceNewsによると、NSPOはファルコン9の定価である6200万ドルは支払っていないだろうとしており、差額の大部分はスペースXがかぶったと推測している。
さらに今回は、打ち上げ方法もいつもとはやや異なり、まず離昇直後に角度を高くした、いわゆる「ロフテッド・トラジェクトリィ」(Lofted Trajectory)で飛行して高度を稼ぎ、第2段の燃焼で速度を稼ぐように飛行した。このため第2段分離後の第1段は、いつもなら100km前後のところ、高度247kmという過去最高の高さにまで達している。
この打ち上げ方は無駄が多いものの、第1段機体の水平方向の速度があまり出ないこと、また高度の高さは大気圏再突入時の負荷にあまり関係しないことなどから、着陸はやりやすくなる。実際、第1段機体は「指示をよく読め」号の甲板の真ん中に、ゆるやかに降り立った。
結果的に、ロケットの打ち上げ能力に対して衛星の質量が軽かったことを利用し、あえて無駄の多い打ち上げ方をすることで、第1段機体を確実かつ安全に回収することができた。機体に問題がなければ、今回回収された機体はいずれ、再使用打ち上げに使われることになるとみられる。
また、第1段と同様に、今回の打ち上げ方はフェアリングの回収にとっても楽な条件だったと考えられる。スペースXでは第1段機体だけでなく、フェアリングも回収して再使用することで、さらなるコストダウンを狙っている。
同社のイーロン・マスクCEOによると、フェアリングの製造には600万ドルほどかかるとされ、回収して再使用できれば、整備費などを引いても、かなりのコストダウンが期待できるという。
回収方法などの詳細は明らかにされていないが、エンジンを逆噴射しながら着陸する第1段機体とは違い、パラフォイルで滑空する回収方法とされる。これまで何度か試験が行われているものの、まだ成功したことはない。
ただ、今回も回収が試みられたのかや、その成否などは明らかにされていない。
ファルコン9通算40機目の打ち上げ、次回は空軍の極秘ミッション
ファルコン9は8月15日にも打ち上げが行われたばかりで、発射台は異なるものの、わずか10日間で2機の打ち上げに成功した。また、今年だけでも12回目の打ち上げとなり、そのすべてが成功している。
2010年に運用が始まったファルコン9の初期型から数えれば、今回で40回目の打ち上げとなり、成功率は97.5%になった。なお、2016年に打ち上げ前に爆発した機体を含めると95.1%になる。
次のファルコン9の打ち上げは、9月7日に予定されている。この打ち上げでは、米空軍の無人スペースシャトル「X-37B」を、フロリダ州にあるNASAケネディ宇宙センターから打ち上げる。
また9月下旬から10月上旬にかけては、ケネディ宇宙センターからSESの通信衛星の打ち上げと、今回と同じヴァンデンバーグ空軍基地から10機のイリジウム衛星を積んだ打ち上げも相次いで予定されている。
参考
・FORMOSAT-5 Mission
・Welcome to NSPO - FORMOSAT-5 Launched into Space
・1st ASTS teams up with SpaceX for Falcon 9 launch > Vandenberg Air Force Base > Article Display
・Welcome to NSPO - Space Programs | FORMOSAT-5
・Welcome to NSPO - FORMOSAT-5 Successfully Contacted with Ground Station
著者プロフィール
鳥嶋真也(とりしま・しんや)
宇宙開発評論家。宇宙作家クラブ会員。国内外の宇宙開発に関する取材、ニュースや論考の執筆、新聞やテレビ、ラジオでの解説などを行なっている。
著書に『イーロン・マスク』(共著、洋泉社)など。
Webサイトhttp://kosmograd.info/
Twitter: @Kosmograd_Info