海洋研究開発機構(JAMSTEC)は、日本放送協会(NHK)と共同で、フルデプスミニランダーに搭載した4Kカメラにより、マリアナ海溝の水深8,178mで遊泳する魚類(マリアナスネイルフィッシュと思われるシンカイクサウオの仲間)の映像を撮影することに成功したことを発表した。
JAMSTECでは海溝域における探査技術の開発を進めるとともに、生物の多様性や生態系の研究を進めてきた。しかし、深海の中でも特に深い海溝域はきわめて高い圧力のためアプローチが難しいことから、海溝域に生息する深海生物の調査は十分行えていなかった。
海溝やさらに深い海淵における生物やその生態は古くから興味の対象となっており、海溝域における魚類の存在は、1960年にチャレンジャー海淵の海底に潜航したジャック・ピカールとドン・ウォルシュらが「ヒラメのように平たい形をした魚を見た」と証言したが、これまで記録された魚類の種類や生息深度などから、彼らが見たものは魚ではなく、別の生物でないかという論文が発表された。実際に、無人探査機「かいこう」などによる水深9,000mを超える環境の調査においては、魚類が確認されたことはない。
現在、最も深い海から採取された魚類は、1970年に大西洋・プエルトリコ海溝の水深8,370mから得られたヨミノアシロで、採取は網を用いて行われたがセンサによる精密な深度や現場の映像は撮られていない。また、2014年、マリアナ海溝の水深6,198~8,145mの海底において2種類のシンカイクサウオが撮影され、動画サイトと論文上に発表されたほか、2017年4月には中国科学院がマリアナ海溝の水深8,152mの海底で魚類の撮影に成功したと発表した。
今回、JAMSTECとNHKはマリアナ海溝において、4Kカメラを搭載した自動昇降式の観測装置(ランダー)を開発し、本年5月に深海調査研究船「かいれい」で調査航海を行い、水深7,498m地点と生息限界深度とされる水深8,200mに近い水深8,178m地点の2か所にランダーを設置した。水深7,498m地点では、ランダーの着底から3時間37分後、シンカイクサウオの仲間が現れ、複数で遊泳する姿が記録されたほか、大型のヨコエビであるダイダラボッチも現れた。
一方、水深8,178m地点では、ランダーの着底から17時間37分後の映像に、シンカイクサウオが泳ぐ姿を記録した。この水深は、これまでの記録である水深8,152mを26m上回る世界最深記録となった。外観から判断する限り、今回撮影された種は水深7,498mで撮影されたものと同一と考えられるという。水深7,498m地点で得られた映像との比較から、水深8,178m地点におけるシンカイクサウオの生息密度は、水深7,498mよりはるかに低いと推測されるとしている。
今回の調査により、魚類の生息限界深度とされる水深8,200mに近い水深8,178mで、魚類の存在が確認された。今後は、海溝域における食物連鎖網の解明や生物群集の生息密度の推定を進めるべく、現場観測、サンプル採取や解析も視野に入れた研究を継続する予定だとしている。