京都大学は、ヒト以外の動物も複数の物体の大きさの「平均」を抽出することを示すという報告を発表した。
同研究は、京都大学霊長類研究所の友永雅己教授、新潟国際情報大学の伊村知子准教授の共同研究グループによるもので、同研究成果は、英国時間8月23日に英国の総合科学誌「Proceedings of the Royal Society B: Biological Sciences」に掲載された。
ヒトは、群衆の表情や、鳥の群れの進行方向、店に並べられた複数の果物や野菜のおよその大きさなど、全体の「平均」の特徴をすばやく抽出することに長けている。このような能力は、ヒトでは遅くとも4、5歳頃から見られるが、ヒト以外の動物では調べられていなかった。ヒト以外の霊長類においても場面全体の視覚情報を素早く処理することは重要な能力だと考えられるが、これまで、ヒト以外の霊長類や鳥類では、全体的な特徴よりも個別の対象の特徴に注意を向けがちであることが繰り返し示されており、「平均」の特徴を抽出することが難しい可能性も考えられた。
そこで同研究チームは、京都大学霊長類研究所の5個体のチンパンジーと18名の成人を対象に認知課題を行った。まず、画面上に、1個の円(Single条件)、12個の等しい大きさの円(Homo条件)、4種類の異なる大きさの円を3個ずつ含む12個の円(Hetero条件)を左右に1秒間(ヒトでは0.5秒間)提示し、2つのセットのうち円の大きさの大きい方に触れると正解とした。その結果、ヒトもチンパンジーも、Single条件よりもHomo条件、Hetero条件で統計的に有意に高い正答率を示した。1個の円を比較する条件に比べ、12個の円を比較する条件の方が高い正答率を示したことから、ヒトもチンパンジーも複数の円の大きさの「平均」を知覚している可能性が示唆された。また、チンパンジーが「平均」ではなく、セットに含まれる一番大きな円(または一番小さな円)を手がかりに選択した可能性についても検証したが、この結果からも、チンパンジーが個別の円の大きさを手がかりにして円の大きい方を選択していたわけではないことがわかった。
この結果から、チンパンジーもヒトと同様に、複数の円の大きさの「平均」を知覚している可能性が示唆された。これまで、ヒトとチンパンジーの全体的な情報処理には多くの相違点があると考えられてきたが、複数の対象から特徴の「平均」を抽出する能力については、チンパンジーにおいても共有されている可能性があるという結果となったということだ。