横浜市立大学(横浜市大)は8月18日、臓器を作るとき、細胞が十分な数に達した場合に、細胞周囲にかかる力を検知して増殖を停止させる仕組みを発見したと発表した。

同成果は、横浜市立大学学術院医学群の大野茂男 特別契約教授、同、分子細胞生物学教室の古川可奈 大学院生、山下和成 特任助教らの研究グループによるもの。詳細は米国の学術誌「Cell Reports」に掲載された。

臓器・器官が形作られ維持される過程において、上皮細胞のシート状の構造が、形作りの主役を果たしている。これは、細胞同士が互いに接着することにより形成され、同じシート内の細胞同士の間にかかる物理的な力により、上皮細胞シート内の細胞は支えられて集団としての形を作っている。

臓器・器官における特有な大きさと形の維持には、「細胞の増殖制御」と「物理的な力による形作り」が重要だが、どのように関係しあっているのかは未解明であった。

今回の研究では、周りの細胞との間にかかる力を生むものの候補として「環状アクチンベルト」と呼ばれる細胞を取り囲むリング状の収縮性細胞骨格構造に着目。細胞との間にかかる物理的な力が、増殖を制御すると予想し、「環状アクチンベルト」にかかる張力が、細胞の増殖を誘導する遺伝子であるYAPの活性に与える影響を調べた。

YAPは核と細胞質とを行き来し、核内に蓄積している時に増殖関連遺伝子のスイッチをオンにして増殖を誘導。上皮細胞シートの細胞は、細胞密度が一定に達すると増殖が停止することで、臓器・器官の正常な形と大きさを決める一因と考えられている。

同研究グループでは、YAPが核から細胞質に出る際、増殖関連遺伝子がオフになっており、この核外排出には「環状アクチンベルト」にかかる収縮力が必要であることを示した。このことから、上皮細胞シート内の細胞同士が混み合ってくると、「環状アクチンベルト」が収縮を起こし、YAPの活性をオフにして増殖が停止する。同グループは、これが細胞増殖停止の「からくり」が判明したとしている。

さらに、YAPを核外に移行させる分子メカニズムをさらに調べたところ、「環状アクチンベルト」の収縮の際、YAPの核外排出が誘導されていることを突きとめた。しかし、格外排出されるタンパク質には、核外移行シグナル配列(NES)があるのに対し、YAPにはNESが含まれない。さらに解析を進めたところ、YAPにはNES、YAPと結合する能力を持っているMerlinがYAPの核外排出を担っている事を見つけた。細胞が足りない状況では、Merlinは細胞間接着部位に局在し、細胞の密度が高くなると細胞間接着部位から解放されて核内に入り、YAPの核外排出を行うことでYAPの活性をオフにすることがわかったという。

細胞の込み具合の違いによるMerlinの局在変化とYAPの核外排出(出所:横浜市立大学Webサイト)

なお、今回の成果について同研究グループでは、「環状アクチンベルト」に働く力が、細胞シート構造の形づくりのみならず、「大きさ」をも決めうるという新たな発見であり、「環状アクチンベルト」の重要性を再認識させると同時に、臓器・器官の大きさの決定メカニズムの理解に向けた大きな一歩となるほか、がん抑制遺伝子としても知られるMerlin、そしてYAPの作用メカニズム、またMerlinあるいはYAPの異常に起因するがんの本態解明にも新たな視点を提供するとコメントしている。