東京大学(東大)は8月21日、強いレーザー光を強相関物質へ照射することで、その物質における超伝導性が熱平衡系では達成することができないほど増大することを、スーパーコンピュータを駆使した理論的な考察により見出したと発表した。
同成果は、東京大学大学院工学系研究科物理工学専攻の大学院生 井戸康太氏、同 大越孝洋特任助教、今田正俊教授らの研究グループによるもので、8月18日付の米国科学誌「Science Advances」オンライン版に掲載された。
室温領域における超伝導の実現に向けた研究が世界中でなされているが、これまでの常圧下での最高転移温度Tcは銅酸化物で実現された約-140℃で、常圧下でのTcはここ数十年でほとんど変化していない。この状況を打破するために近年、レーザー照射などの非平衡過程を利用して転移温度を制御しようという試みが行われている。
同研究グループは今回、相関電子系において、非平衡性を利用した新たな超伝導増強の可能性を提示することを目指し、銅酸化物群に対する最も単純な理論模型での電子ダイナミクスについて、電子間相互作用の効果を精度よく取り込める数値計算手法を開発し、それを用いた数値シミュレーションを実行した。
この結果、平衡状態において超伝導を抑制してしまう電荷不均一状態を回避して、顕著な超伝導をもつ動的に安定な状態を、光照射によって実現できることを示した。この現象は、光による電子の加速が、静的に固まった不均一状態を破壊する一方、光による引力の増大が、高温超伝導体に必須となる電子のペア形成に効くという複合的な効果によって起きたものと考えられるという。
今後は、今回の理論的予言を実験でも実証することが望まれると同研究グループは説明している。