鉄道総合技術研究所(以下、鉄道総研)は、主電動機(モーター)の電流情報を用いた電車の新たな空転制御方法を開発したと発表した。
開発された制御方法は、空転の検知にモーターの電流値の差を用いて、従来よりも空転を早く検知できるようにしたもの。レールと車輪は、ともに金属のため滑りやすく、雨天時などでは、車輪が滑って空回りする空転が発生する。空転が発生すると、車両を加速させる力(摩擦力)が低下し、検知が遅れると列車が加速し難くなり、また、空転が回復する際に、車両を加速させる力が急激に作用することがあるため乗り心地が低下する。空転を早く検知することで、摩擦力の低下を軽減でき、空転から早く回復できるようになるということだ。
電車は、空転が始まるとモーターの回転速度が大きくなるので、従来は、主にモーターの回転速度の変化(回転加速度)によって空転を検知している。台車内の2つのモーターを1台のインバータ装置で制御する一般的な1C2M方式の電車の場合、空転の検知には、2つのモーターの平均回転加速度を用い、前後の輪軸が共に空転となった段階で検知している。一方、最近の鉄道総研における研究から、「ひとつの台車内の輪軸では、進行方向の前方が後方よりも先に空転を始めることが多い」こと、「空転した輪軸のモーターでは、加わる負荷の低下に伴って電流値が減少する」ことがわかった。そのため、1C2M方式の電車の場合、空転の検知にモーターの電流値の差を用いると、前方輪軸が空転を始める空転の初期段階で検知できる可能性を見出したという。
開発した空転制御方法の効果を試験車両による走行試験で確認した結果、従来の空転制御方法と比較して、 空転時に車両を加速させる力を高く維持することができるため、空転時の平均加速度が5%以上向上した。また、空転回復時の摩擦力と駆動力の差が小さくなり、車両を加速させる力が急激に作用しないため、回復時の車体前後振動加速度が40%以上減少し、乗り心地が向上した。なお、開発した制御方法は、従来の検知方法も併用しているという。
同手法を用いた空転制御システムは、西日本旅客鉄道(JR西日本)と三菱電機の協力により、JR西日本所有の323系電車で実用化され、 乗り心地の向上などに貢献しているということだ。