ニューヨーク大学医学部は、ビタミンCに白血病など血液のがんを治療する効果があるとする研究成果を報告した。研究論文は「Cell」に掲載された。

ある種の白血病患者には、TET2と呼ばれる酵素の働きを低下させる遺伝子変異があることが知られている。TET2には、幹細胞が分化して血液細胞になり、成熟した後に正常に死滅するというプロセスを促す働きがあるとされる。研究チームは今回、遺伝子操作でTET2を不足させたマウスにおいて、ビタミンCがTET2の機能を活性化させることを発見したと報告している。

ビタミンCの高用量投与によって白血病を治療できる可能性がある(出所:Cell, DOI:10.1016/j.cell.2017.07.032

「ビタミンCの高用量投与を他の標的療法と組み合わせることによって、TET2が不足した白血病幹細胞が引き起こす血液の病気を安全に治療できる可能性がある」とニューヨーク大学医学部教授・パールマターがんセンター所長のBenjamin Neel氏はコメントしている。

TET2の機能低下を起こす遺伝子変異は、急性骨髄性白血病患者の10%で見つかっている。また、骨髄異形成症候群と呼ばれる前白血病の患者では30%、慢性骨髄単球性白血病患者では50%近くにこの種の遺伝子変異があるとされる。これらのがんは、貧血、感染症リスク、骨髄中での異常な幹細胞の増殖にともなう出血などを引き起こし、血液細胞の産生を阻害するようになる。こうした症状の数は年齢が上がるとともに増加する。

研究チームは、全米のがん患者の2.5%にTET2の遺伝子変異があると見込んでいる。その中にはリンパ種や固形腫瘍の患者も一部含まれるとする。

ある遺伝子を使うか使わないかを制御するプロモーター部がメチル化(分子にメチル基が結合した状態)していると、その遺伝子を使うことができなくなる。TET2には、DNAの4塩基のうちシトシンと結合したメチル基を酸化除去する「脱メチル化」を可能にする働きがある。この脱メチル化によって、幹細胞を血液細胞へと成熟させ、異常な細胞増殖ではなく正常な細胞死へと向かわせる遺伝子のスイッチが入ると考えられている。TET2遺伝子変異をもっている血液がん患者では、こうした抗がん安全機構が破壊されている、とNeel氏は説明する。

TET2を機能低下させる遺伝子変異の効果を特定するために、研究チームは遺伝子操作したマウスを使って、TET2遺伝子のオンオフを切り替えられるようにした。TET2遺伝子をオフにしたマウスでは異常な幹細胞の挙動がみられたが、遺伝子操作によってTET2が発現するように修復するとこれらの異常挙動も元に戻った。

先行研究では、ビタミンCがTET2およびその近縁酵素TET1とTET3を活性化させる可能性があることが示唆されていた。そこで今回の研究では、高用量のビタミンCを静脈投与しただけで、TET2遺伝子をオンにする操作と同様の効果があるのではないかとの仮説が立てられ、実際にそうした効果があることが実験で示された。ビタミンCの高用量投与療法によって、DNA脱メチル化が促進され、幹細胞の成熟が起こったとみられる。また、人間の患者からマウスに移植した白血病幹細胞に対しても、成長抑制効果がみられたという。

高用量ビタミンC投与をPARP阻害剤と組み合わせて用いた場合にも、白血病幹細胞に対する効果が増強されることがわかった。PARP阻害剤は、DNA損傷の修復機構が働かないようにすることでがん細胞を死なす薬剤である。この結果は、TET2変異を伴わない白血病幹細胞についても、ビタミンCが細胞死に導く効果があることを示唆しているという。