太陽はいろいろな波長の電磁波を放出している。そのうち波長が400~800ナノメートル(1ナノメートルは1ミリメートルの100万分の1)くらいの電磁波には、「可視光」という名前がついている。これは、私たち人間の目が「光」として感じることのできる電磁波だ。太陽からの電磁波はこの波長域が強いので、私たちはそれを有効に使ってモノを見ることができる。この光を効率よく使えるように、私たちの目が進化したともいわれている。
地球上の植物は、水と二酸化炭素から栄養分を作り出す「光合成」を行っている。そのエネルギー源として、おもに青と赤の光を吸収して使う。緑は使わないので反射する。だから植物の葉は緑に見える。いずれにしても、使っている光は可視光だ。
もし、太陽とは違う種類の光を出す恒星の周りにある「太陽系外惑星」に植物が生えていたら、どんな光を使うのだろうか。
私たちの太陽から近いところには、「赤色矮星(せきしょくわいせい)」という種類の恒星がいくつもあり、その周りに惑星も見つかっている。赤色矮星が出す光は、太陽に比べて可視光の割合が低く、それよりやや波長が長い「近赤外線」が多い。
もしそこに植物が生えていたら、私たちの目が太陽の光に合わせて進化したように、近赤外線を使って光合成しているはずだ。地球外生命の探査では、可視光ではなく、まず近赤外線を使う植物を探せ。そう思いたくなる。
だが、自然科学研究機構アストロバイオロジーセンターの滝澤謙二(たきざわ けんじ)特任准教授らがこのほど発表した論文によると、それはどうも早合点らしい。赤色矮星の周りだからといって、地球型の光合成をする植物が陸上にいないわけではないというのだ。
地球の生物は、かつてはすべて海の中にいた。太陽からの有害な紫外線を避けるためだ。今から27億年くらい前に、光合成をする「シアノバクテリア」が登場し、光合成の際に出す酸素が大気中に広がって上空に「オゾン層」ができた。このオゾン層が紫外線を吸収してくれるので、生物はやっと海から陸に進出できるようになった。
滝澤さんらは、地球から16光年の距離にある「しし座AD星」という赤色矮星を例に、その周りの惑星では、植物はどのような光合成をするかを考えた。
まだ酸素がなく、オゾン層もないので、植物は強い紫外線を避けるため、10メートルより深い水中にいたはずだ。ところが、近赤外線は水面から1メートルくらいで水に吸収されてしまう。だから、水中の植物は、可視光を使う地球と同じタイプの光合成をすることになる。
問題は、陸に進出していく際に通過しなければならない、水面から1メートルの部分だ。水面に向かって、どんどん近赤外線の割合が増えてくる。
滝澤さんらが、光合成のしくみについての新しい理論に基づいて検討したところ、植物がもしこの光の環境の急変に適応しようとすると、体内の組織を傷つける「活性酸素」が発生して、生存に不利になることが分かった。つまり、地球型の光合成をする植物として、そのまま水中から陸に進出したほうが有利になるという結果だ。
陸に上がった植物が、そのさきどのように進化していくかは分からない。可視光より豊富な近赤外線を利用するようになるのかもしれない。「だが、すくなくとも陸に出て間もない植物の中には、地球型の光合成をするものがいてもおかしくない。『赤色矮星の周りにあるのだから、地球型ではないはず』と思ってはいけない」と滝澤さんは説明する。
太陽系外惑星から来る電磁波を観測し、光合成で使われるはずの波長を精度よくとらえることは、今のところまだできないという。しかし、可視光や近赤外線の高精度観測を狙う大型望遠鏡「TMT」の計画が、国立天文台などが参加する国際プロジェクトとして進められている。滝澤さんらが指摘した通りの「地球外植物」が見つかる日も、いつかやってくるのかもしれない。
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