文部科学省のスーパーサイエンスハイスクール(SSH)事業は、大学・研究機関とも連携した先進的なカリキュラムにより、優れた科学技術系人材の育成を図ることを目的に平成14年度26の指定校から始まった。今年度は、全国203の学校が指定校としてそれぞれの特色を生かした理数教育を実践している。

それらSSH指定校の生徒たちが、授業や部活動で取り組んできた研究の成果を発表する「平成29年度スーパーサイエンスハイスクール生徒研究発表会」が8月9日・10日に神戸市で開催された(主催:文部科学省、科学技術振興機構(JST))。

今年で14回目となる発表会には、現SSH指定校(および元指定校)206校と海外招聘校25校から生徒・教員約4,000人が参加。初日は全体会に続き、各校がポスター形式で研究成果を発表した。生徒たちは所定の掲示物に加え、実験装置や記録映像なども示しながら研究概要を説明。90名余りの審査員が各ブースを回り、発表者との対話を通じて研究を審査したほか、参加した生徒たちは相互評価を行った。

ポスターだけでなく実際に使用した実験装置や映像を使うなど、各校とも発表方法にも工夫していた

2日目は、206件の研究作品から審査員が選出した6作品のステージ発表が行なわれ、審査結果が発表された。最優秀の文部科学大臣賞には、兵庫県立加古川東高等学校の「微小重力下での濡れ性を利用した管内流の制御」が選ばれたほか、審査委員長賞や生徒投票賞などが表彰された。

県立加古川東高校の研究は、自然科学部物理班の5人によるもの。同班では以前から、個体と液体が相互に引き付けあう「濡れ性」の研究を行ってきた。メンバーの藤原圭梧さんは、「この性質を上手に利用することで、国際宇宙ステーションなど微小重力下でも使える"宇宙ピペット"をつくれないかと考えたことが、本研究のきっかけ」と話す。

藤原さんらは、「濡れ性の異なる境界面では液体の動きは静止する」との仮説を基に、ピペットの模型を作成。校舎から自由落下させて微小重力状態をつくり、内部の水の動きを映像解析した。その結果、境界面では水が振動するものの、時間経過によって減衰することがわかったという。藤原さんは、「微小重力下での実験に使えるピペットの実現に向け、水の動きを制御可能なことが示せた」と研究成果を総括した。

加古川東高校の生徒が背負っているのが実験装置。中にピペットの模型を入れて校舎4階から落下させ、微小重力状態での水の動きを分析した

長崎県立長崎西高等学校のグループは、オオアメンボがエサの探知などに利用する水面波に関する研究を発表した。「オオアメンボは、昆虫などが水面で起こす波には寄ってくるのに、風による波には反応しないのが不思議だった」と話すのは福澤咲知子さん。生物部に所属する4人で、1年生の頃からこのテーマを研究してきたという。

振動数や振幅の異なる水面波を発生させる装置を自作し、オオアメンボの反応を調べたところ、振幅2.5mm以下の水面波に対して捕食行動を起こすことや、オスの前脚と後脚の4点から生まれる干渉波が、メスを呼び寄せることがわかった。

「アメンボが小さな波をコミュニケーションに使っていることがわかり、昆虫の行動の面白さをあらためて感じた」という福澤さんは、「これまでの研究成果を、大きな舞台で発表できてよかった」と手ごたえを語っていた。

名古屋市立向陽高等学校の国際科学科では、すべての生徒が何らかの科学研究を行うカリキュラムを実践している。安田聖乃さんら4人は、ユリの花粉管誘導に着目。受粉後に伸びる花粉管が、誘引物質によって花柱から胚珠にまで導かれていく様子を実験で明らかにした。

「誘引物質が雄しべのどの部分から出ているのかを確かめるため、部位の切り分け方を変えて実験を繰り返した」と安田さん。今回の研究では、花粉管誘引物質を世界で初めて発見(2009年)した、名古屋大学大学院の東山哲也教授から助言を受ける機会もあり、「最先端の研究状況などを教えていただいたことが刺激になった」と語った。

「BR反応の試薬量による違いを探る」と題して発表したのは、学校法人ノートルダム清心学園 清心女子中学校・清心女子高等学校の松岡里奈さんと西川由梨那さん。大学見学の際、演示実験で見たBR(Briggs-Rauscher:ブリッグス・ラウシャー)反応に興味を持った2人は、「課題研究」の授業でこのテーマを追究することにした。

硫酸マンガンやマロン酸など使用する試薬の量を変えながら、振動回数や継続時間などを比較して分析したほか、より効率的な解析を行うため、光センサーを使った専用の計測装置も自作した。松岡さんは、「無色透明の溶液が琥珀色から深いブルーへ、また透明へと何度も変化するのがこの反応の面白さ」とし、「私たちが感じたBR反応の魅力を、たくさんの科学好きの高校生に伝えられたことがうれしい」と発表会を振り返っていた。

「BR反応の魅力を伝えたい」と発表に臨んだ清心女子高校の二人。来場者からの質問にも丁寧に答えていた

発表ブースには文部科学省の戸谷一夫事務次官も来場し、生徒たちの説明に熱心に聞き入った。その後の表彰式であいさつした戸谷氏は、「今回の発表会の成果を研究のレベルアップにつなげ、新たな価値を創造し、国際的課題を解決する人材に成長してほしい」と参加した生徒たちを激励した。

戸谷一夫文部科学事務次官(右)も各校の発表ブースを巡り、生徒たちの説明に聞き入った

また、発表会審査委員長を務めた重松敬一氏(奈良教育大学教授)は、研究テーマの設定や発表方法の工夫など高校生の活動を評価する一方、「新科目『理数探求』が設置される新学習指導要領を見据え、都道府県ごとの理数教育戦略が求められる」と、高校生らの研究活動を支援する地域の体制づくりの必要性を訴えた。

25の海外招聘校もポスター発表に参加。各国の科学研究の状況を知ろうと、多くの日本の生徒たちが足を止めていた

発表への感想が書きこまれた"Good Job"シール。生徒たちの投票による相互評価も行われた

選出された6校によるステージ発表では、会場の生徒たちからも多くの質問が出ていた