京都大学(京大)は8月22日、古人骨集団の食性のデータから、植物の摂取割合に着目し、子供と成人女性・男性の食性差はあってもごくわずかであることを発見。加えて、狩猟採集民では食性差が見られない一方で、農耕民・都市居住民では子供の植物摂取割合が成人よりわずかに高いことが明らかになったと発表した。
同成果は、同大の蔦谷匠 理学研究科・日本学術振興会特別研究員によるもの。詳細は国際学術誌「American Journal of Physical Anthropology」に掲載された。
ヒトの子供は、離乳が終わったあとも年上の個体に依存し、両親などの提供する食物を食べて生きている。この特徴によって、採食スキルや身体強度が発達しきっていない離乳後の時期でも、離乳が終わると自力で採食や遊動を行うほかの霊長類と比べて、ヒトの子供の死亡率は比較的低く抑えられている。
ヒトの離乳後の子供の時期は、進化的に重要ながらも、離乳後の子供が実際に何を食べているか、さまざまなヒト集団について横断的に調べた研究はなく、多くの仮説があったが、その詳細は明らかになっていなかった。
今回の研究では、過去1万年間程度の世界中の古人骨集団について報告されたデータを集めてメタ解析し、離乳後の子供の食性を、同じ集団の成人女性・男性の食性と比較するにあたり、生前の食生活の情報が記録されている安定同位体比を指標とした。
解析の結果、離乳後の子供と成人女性・男性の食性の差は、ごくわずかであった。このことから、同じ集団の成人から食物を与えられていれば、子供も安定同位体比が同様になると考えられるとし、離乳後の子供に年上の個体が積極的に食物を与えるという進化的なヒトの特徴と結果は整合的であったといえる。
ただし、狩猟採集民では食性差が見られない一方で、農耕民・都市居住民の集団では、離乳後の子供>成人女性>成人男性という順で、食性のなかに占める植物の割合がわずかに高い傾向にあった。農耕民が、穀物や植物を離乳食として用いることは、先行研究によって明らかになっていたが、今回の研究で、離乳後の子供にも同様の傾向があることが、明らかになったとしている。
なお、今回の成果について研究グループでは、今後、こうした食性の差の原因やその帰結をより詳しく調べていくには、現代のヒト集団を対象にした民族学的な調査や、過去の集団をさまざまな側面から調べる詳細な生物考古学の研究が重要である、とコメントしている。