科学技術振興機構(JST)は、ジュネーブ大学・理化学研究所の田嶋達裕博士、理化学研究所 脳科学総合研究センターの豊泉太郎 チームリーダー、東京大学 先端科学技術研究センターの高橋宏知講師、東京大学 大学院情報理工学系研究科 三田毅氏、スイス連邦工科大学 チューリッヒ校のダグラス・J・バッカム博士が共同で、神経活動の局所的な活動パターンから将来の大規模な活動状態の発生を予測する技術を開発したことを発表した。この成果は8月21日、米国科学誌「Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America(米国科学アカデミー紀要)」のオンライン速報版で公開された。
脳内では、多数の神経細胞が自発的に同時に強く活動する現象(自発同期バースト)が、しばしば観察される。その仕組みの解明や発生の予測は、脳の機能や病態を理解するうえで重要であると考えられてきたが、自発同期バーストが起こるタイミングは一見すると規則で、そのきっかけについては分かっていなかった。
研究グループは、自発同期バーストは不規則に発生しているように見えるが、実は予測できるのではないかと考え、神経細胞のネットワークが自発同期バーストを起こす直前に注目し、神経活動の時空間パターンに隠された将来の自発同期バーストの発生を予測する「予兆」を探した。
「時間遅れ再構成」を用いて神経活動の時間変化を追跡し、それぞれの神経細胞がネットワーク全体の将来の自発同期バーストをどの程度予測できるか定量化する数理的手法を開発した。また、CMOSセンサーアレイ上で人工培養した細胞集団を用いて、時間的にも空間的にも高精度な計測データを取得、解析した結果、特定の細胞群が常に高い精度で将来の自発同期バーストの「予兆」を示すことを発見した。
この「予兆」には、神経細胞のネットワークで、周囲の細胞と強く結合した興奮性の細胞の活動であること、瞬間的な活動の強さだけではなく、各神経細胞の活動の時間的なパターンを見て初めて高精度な予兆が検出できること、ネットワーク全体の平均的な揺らぎをみるより、特定のひとつの細胞の活動に注目したほうが早く正確に予兆を検出できること——という特徴があることがわかった。
これらの結果から、「時間遅れ再構成」の手法を用いて神経ネットワークの局所的な状態変化を検出することで、これまで不規則と思われていた自発同期バーストのタイミングが事前にある程度予測できることが明らかになった。今回開発された数理的手法は、将来的にはてんかん発作の高精度な予測や、脳以外のさまざまなネットワークの動態(SNS、感染症流行、金融など)の予測に役立つことが期待されると説明している。