東京医科歯科大学(TMDU)は、上大静脈起源の異所性興奮が原因で起こる心房細動の患者に対して、共通する臨床パラメーターや一塩基多型を特定したことを発表した。

この成果は、同大学医学部附属病院遺伝子診療科の江花有亮 講師と難治疾患研究所生体情報薬理学分野の古川哲史 教授の研究グループが、さいたま赤十字病院、土浦協同病院、国立災害医療センターと共同で実施した、2,170人の心房細動症例を対象とした臨床研究によるもの。8月11日、国際科学誌「Circulation Journal」オンライン版で発表された。

心房細動は日本において150 万人の患者が存在すると推定されており、脳梗塞の原因の約1/3がこの不整脈由来であるといわれている。その発症原因として、心臓の器質的な疾患や高血圧、飲酒などの環境的な要因について指摘されており、近年では大規模なゲノムワイド関連研究(GWAS)を通して、遺伝子が発症リスクであることも知られていた。

心房細動の原因となる異所性興奮は、肺静脈起源のものが大半とされているが、日本人では上大静脈起源のものも多く報告されており、治療上考慮すべき重要なポイントである。

心房細動患者に対しカテーテル・アブレーション治療を行う場合、肺静脈隔離術という治療が一般的だが、繰り返し肺静脈隔離術を実施しても心房細動が再発することがある。上大静脈に心房細動のトリガーとなる異所性興奮を認めた症例、また薬物投与と心臓への電気的な刺激によって、上大静脈から異所性興奮を認めた症例を「上大静脈由来の心房細動」と定義した。この研究において、通常の心房細動患者と異なる臨床的特徴は、比較的若年であり、女性が多く、痩せ型の体形であることが判明した。

また、また日本人のゲノムワイド関連研究(GWAS)で同定されていた6つの一塩基多型について遺伝型タイピング解析を行ったところ、「4q25/PITX2 遺伝子領域」と「10q25/NEURL1 遺伝子領域」が上大静脈由来心房細動のなりやすさと関連していることが示され、この2つの遺伝子領域について遺伝型データを用いて遺伝的リスクスコアによって検討を加えたところ、リスクが約9倍となることが示された。

これらの臨床的因子および遺伝的因子について、3施設でのメタ解析を実施し、さらに信憑性の高い結果となった。これらの遺伝子の影響を見るために、GTExという公開データベースで遺伝子型による組織における遺伝子発現レベルの変化を確認したところ、リスクとなる遺伝子型では NEURL1という分子の発現レベルが低下していることが判明した。

この研究により、上大静脈由来心房細動の臨床上の特徴と遺伝的因子が明らかになった。今後、これらを手掛かりに上大静脈における異所性興奮発生のメカニズムの解明やカテーテル・アブレーション治療におけるストラテジーの決定などへの活用が期待される。