京都大学(京大)は8月18日、性染色体トリソミーを有する不妊マウスの線維芽細胞から、正常な核型を有するiPS細胞を作成し、それらから始原生殖細胞に非常によく似た性質を持つ始原生殖細胞様細胞・精子を経て、健常な産仔の作成に成功したと発表した。
同成果は、京都大学大学院医学研究科 斎藤通紀教授、大田浩助教、英国フランシス・クリック研究所 James M. A. Turner博士、廣田孝幸博士らの研究グループによるもので、8月17日付の米国科学誌「Science」オンライン速報版に掲載された。
性染色体トリソミーは、通常は父親由来・母親由来の2本ずつの染色体を有するところ、減数分裂の異常などにより、特定の染色体を3本有する状態。今回の実験に用いられたマウスは、性染色体トリソミーXXYおよびXYYを持ち、それぞれクラインフェルター症候群とダブルY症候群のモデルとなるマウスで、どちらのマウスも精子を作ることができない。
同研究グループはこれまでに、マウス多能性幹細胞から始原生殖細胞様細胞を誘導し、生殖細胞欠損マウス新生仔の精巣に移植することで精子を作り、健常な産仔を得ることに成功してきた。今回の研究では、XXYマウス、XYYマウスの成体の線維芽細胞からiPS細胞を樹立すると、その過程で余剰な性染色体欠損を起こし、一定の割合で核型の正常なXY型のiPS細胞が樹立されることがわかった。樹立されたiPS細胞は効率よく始原生殖細胞様細胞に分化し、生殖細胞欠損マウス新生仔の精巣に移植してできた精子からは健常な産仔が産まれた。
クラインフェルター症候群やダウン症の患者から得られた線維芽細胞から作成したiPS細胞は、マウスに比べ低頻度ながら、核型の正常なiPS細胞を含むこともわかっている。同研究グループは今後、ヒト始原生殖細胞様細胞の分化を促進する方法論の開発を推進していきたい考えを示している。