北陸先端科学技術大学院大学(JAIST)は8月17日、従来型バインダー材料であるPVDF(ポリフッ化ビニリデン)を代替し得る特性を有するリチウムイオン2次電池用新型高性能高分子バインダーの開発に成功したと発表した。
同成果は、JAIST先端科学技術研究科物質化学領域 松見紀佳教授、ラーマンヴェーダラージャン助教(研究当時)らの研究グループによるもので、8月11日付の英国科学誌「Journal of Materials Chemistry A」オンライン版に掲載された。
リチウムイオン2次電池用バインダーとしては、PVDFが長くにわたって広く用いられてきた。正極・負極、電解質等の部材については常に基礎研究が活発に行われている一方で、バインダーに関しては近年論文数は向上しているものの、十分に検討されていなかったといえる。
今回、同研究グループは、新たにバインダー材料としてビスイミノアセナフテキノン(BIAN)構造を有するπ-共役系高分子を合成した。同ポリマーは、BIAN骨格を有するジハライド化合物とジエチニルフルオレン誘導体とのSonogashiraカップリング重合により得られるもので、グラファイトとのπ-πスタッキングによる相互作用に有利な芳香族複素環構造や、NMPなどへの溶解性をもたらす側鎖、集電体との相互作用に寄与するジイミン部位を有している。
Li/electrolyte(エチレンカーボネート/ジエチルカーボネート)/C型ハーフセルを構築し、1Cの充放電レートで充放電試験を行ったところ、PVDFを採用した系の放電容量は165 mAg-1であった一方、BIAN型バインダーを採用した系では250mAhg-1を超える放電容量が観測された。
また、それぞれのハーフセルのサイクリックボルタンメトリーを測定したところ、PVDF系では初期のサイクルにおいて不可逆的な電解液の分解ピークが観測される一方、BIAN型バインダーを採用した系では観測されなかった。さらに、ハーフセルの充放電後のインピーダンス測定を行い、インピーダンススペクトルの等価回路フィッティングにより固体電解質界面に相当する界面抵抗を比較したところ、BIAN型バインダーを用いた系において著しく低い界面抵抗が観測された。
同研究グループは今後、セル構成や充放電条件を最適化することで、優れた特性を有する蓄電デバイスの創出に結びつけたい考えだ。