北海道大学(北大)は8月14日、遺伝子塩基配列の解析により、長年不明であった日本産ハツカネズミの起源と渡来の時代背景を明らかにしたと発表した。

同成果は、北海道大学大学院地球環境科学研究院の鈴木仁 教授らの研究グループによるもの。詳細は英国の学術誌「Biological Journal of the Linnean Society」に掲載された。

ハツカネズミはヒトの家屋のみを住みかとしてきたので、人類が先史時代にどのように移動していたかを調べる上で貴重な情報を提供する。先行研究のミトコンドリアのDNA解析より、日本列島には南アジア亜種系統と北ユーラシア亜種系統の2系統の存在が明らかにされていたが、ミトコンドリアDNAの進化速度が解明されておらず、日本列島への移入時期を正確に推定することは困難であった。また、この2つの系統が日本列島でどのように混合し現在に至っているのかの詳細や、人為的な移入の状況も把握できていなかった。

今回の研究では、ユーラシア産ハツカネズミのDNAを用い、基準となるミトコンドリアDNAの進化速度を定め(100万年あたり11%の進化速度)、ミトコンドリアDNAを解読。DNA配列同士がどれくらい近い関係にあるかをネットワーク法という手法により可視化し、集団の歴史的動態を解析した。

その結果、南アジア亜種系統には、約8000年のインドネシア・大陸部と約4000年前の中国南部、日本列島および南サハリンで生じ、北ユーラシア亜種系統は約2000年前の朝鮮半島と日本列島に広がったことが判明。このことから、日本列島には縄文後期と弥生期の始まり頃にそれぞれ移入したことが示唆されたという。

また、隣接する複数の核遺伝子を解析し、DNA配列の組み換え点を観察することで、その系統に固有の断片長を求め、混合の時期を推察したところ、中国南部の系統は現在ではほぼ駆逐された一方、北海道・東北地方においては、ある程度の時間が経過したのち、朝鮮半島系統と中国南部系統が交雑して現在に至っていることが示されたとしている。

また、中国南部および朝鮮半島には存在しないタイプのDNA配列が北日本のハツカネズミのゲノムに存在し、推定される断片長から、中国南部系統よりも古い時代である縄文後期以前に南アジアからハツカネズミが移入していたことが示唆されたという。

さらに、核遺伝子の解析からは、欧米系亜種の断片も観察されたとのことで、研究グループによれば、数十年程前に、ハツカネズミの移入があったことを示すものであり、現代におけるさまざまな人間活動が、欧米系亜種系統の外来的移入を招いたとしている。

ハツカネズミ集団の歴史的動態(出所:北海道大学Webサイト)

今回の成果について研究グループでは、ハツカネズミは、日本人の起源を考える上で有用な知見を与えてくれる可能性があり、大陸部においても調査を行い、人類の先史時代の動態の把握に有益な情報を得たい、とコメントしている。