分子科学研究所(分子研)は8月9日、有機半導体の電荷が結晶に広がる集団的な格子振動と局所的な分子振動から受ける多重の量子効果を観測することに成功したと発表した。
同成果は、分子科学研究所 Bussolotti Fabio博士研究員(研究当時、現シンガポール材料研究所)、解良聡教授らの研究グループによるもので、8月2日付の英国科学誌「Nature Communications」に掲載された。
有機エレクトロニクス技術の元になる有機半導体は、有機分子の集合体であり、固体においてその物性は、結晶構造などの集合状態に極めて敏感に影響される。つまり、分子の構造に加え、その集合状態に依存して、電荷の波動性が前面に現れたり、粒子性が強調されたりする。
分子中の電荷は、分子内の振動の影響を受けやすく、伝導する電荷はこの分子振動の影響に加え、さらに分子全体が寄与するエネルギーの非常に小さな結晶振動の影響を重複して受ける。これらの振動が電荷に与える影響は、シリコンなどの無機半導体におけるものとは異なり、理論的にも有機半導体における影響が議論されていた。
今回の研究では、有機半導体としての利用が期待されるルブレン分子の単結晶に着目。高輝度シンクロトロン放射光施設 UVSORを利用した角度分解紫外光電子分光実験により、電荷が波としての性質をあらわにもつ状態で、各種の振動が及ぼす影響を区別して実験で捉えることに成功した。
この結果、ルブレン結晶の伝導電荷(ホール)質量をより正確に推定することに成功し、その値が理論予測より50%以上大きいことが明らかになった。また、伝導電荷が局所振動と集団振動により異なる影響を受ける様子も観測。エネルギーの大きな局所振動(分子振動)は温度に依存せず影響し、伝導電荷の波の性質を弱くし結晶中で動きにくくする一方で、エネルギーの小さな集団振動(格子振動)は室温において顕著に影響し、伝導電荷を重くし結晶中で動きにくくするが、その効果は低温で失活することがわかった。
今回の成果は、ホールがこれまでの予想より重くなることを示したもので、同研究グループは、有機デバイス開発の新しい進展が期待されると説明している。