東京大学は8月15日、肺動脈性肺高血圧症の治療薬であるボセンタンおよびその誘導体が結合したヒト由来エンドセリン受容体B型の結晶構造を決定。結晶構造から、結合様式を解き明かし、それがエンドセリン受容体A型にも存在することを明らかにしたと発表した。

同成果は、東京大学大学院理学系研究科の志甫谷渉 日本学術振興会特別研究員、西澤知宏 助教、濡木理 教授、名古屋大学の藤吉好則 客員教授、京都大学の土井知子 准教授らの研究グループによるもの。詳細は英国の学術誌「Nature Structural & Molecular Biology」に掲載された。

内在性ペプチドホルモンであるエンドセリン-1によって活性化されるエンドセリン受容体は、A型とB型の2種類が存在し、体内の血圧の制御や細胞増殖を担っているが、シグナルの異常亢進は高血圧やがんの原因にもなることから、高血圧やがんの治療薬候補として、エンドセリン-1による受容体の活性化を阻害する阻害薬の開発が進められてきた。

阻害薬ボセンタンの作用機序(出所:東京大学Webサイト)

今回の研究では、ボセンタンが結合したヒト由来のエンドセリン受容体B型を結晶化し、SPring-8のビームライン(BL32XU 理研ターゲットタンパク)においてX線結晶構造解析を行い、エンドセリン受容体B型とボセンタンの複合体構造を3.6Å分解能、その高親和性誘導体であるK-8794との複合体構造を2.2Å分解能でそれぞれ決定。結晶構造から、ボセンタンとその誘導体であるK-8794の受容体に対する詳細な結合様式を解明したという。

この結果、ボセンタン結合部位はエンドセリン受容体A型とB型で一アミノ酸以外を除いて存在したため、ボセンタンの結合様式はA型とB型で等しいことが示唆されたとする。

また、今回のボセンタン結合型の構造を、過去に決定したリガンドが何も結合していない不活性状態やエンドセリン-1が結合した活性化状態と比較したところ、ボセンタンは膜貫通へリックス6番と7番の構造変化を抑えて不活性化状態に固定することで、阻害薬として機能できることが明らかになったとも研究グループは説明している。

今回の成果について研究グループでは、今後、構造情報を元にしたエンドセリン受容体に対する薬剤の理論的な開発に役立つと考えられるとコメントしている。