国際電気通信基礎技術研究所(ATR)は8月7日、脳の配線を望ましい方向に変更し、認知機能を変化させるニューロフィードバック学習法の開発に成功したと発表した。
同成果は、ATR脳情報通信総合研究所 山下歩研究員、早坂俊亮研究員、川人光男所長、東京大学大学院人文社会系研究科 今水寛教授らの研究グループによるもので、8月7日付の国際科学誌「Cerebral Cortex」オンライン版に掲載された。
さまざまな認知機能は、脳のネットワーク内の繋がり方に影響される。精神疾患や加齢による認知機能の低下は、過度に正または負の方向に偏るなど特定の配線における繋がり方の変容が原因であると考えられている。
精神疾患の治療法として用いられてきた薬物や認知行動療法、加齢による認知機能の低下を防止する脳トレーニングなどは、脳全体の配線に広く影響を与え、特定の領域やネットワークの繋がり方を狙い通り増減させることはできない。
同研究グループは、これまでに配線をピンポイントで変えられる訓練法を開発していたが、配線の繋がりを変えられるということが解ったのみで、特定の配線における繋がりを増加させたり減少させたりできるか、また繋がりを増減させることで日常生活に重要な認知機能にまで変化を及ぼせるかということはわかっていなかった。
そこで今回の研究では、神経細胞の活動によって引き起こされる脳の血流変化をmmの単位で計測できる機能的磁気共鳴画像(fMRI)装置を用いた。同fMRI装置には、計測した脳活動をリアルタイムで解析し、実験参加者に解析結果を即座に知らせる機能(実時間フィードバック)が付加されている。
同研究グループは、fMRIの空間分解能を利用し、30名の実験参加者に対して実時間フィードバックを繰り返すことで、ネットワーク内での特定の領域同士の繋がり方を増加または減少の両方向に変化させることに成功した。さらに、変化の方向に応じて認知機能の変化が異なることも明らかにした。
今回の成果は、変容した繋がり方を正常化し、認知機能を回復するために必要な基礎技術となることから、同研究グループは、精神疾患の治療や、脳の可塑性を生かした新しいリハビリテーション・学習支援法の開発への貢献が期待されると説明している。