静岡県立大学と国立遺伝学研究所(遺伝研)は、マウスを用いた実験により、社会的順位によるストレスがうつ様行動や脳内の遺伝子発現に影響することを明らかにしたと発表した。
同成果は、国立遺伝学研究所の堀井康行氏および小出剛 准教授らと静岡県立大学の長澤達弘 大学院生および下位香代子 教授らで構成される研究グループによるもの。詳細は、英国科学誌「Scientific Reports」(オンライン版)に掲載された。
うつ病の発症の多くには生活環境によるストレスが関わっていると考えられており、その中でも「社会的ストレス」は対応の難しいものの1つであり、社会的ストレスが脳に与える影響を明らかにすることが、うつ病を改善するための治療法の確立に役立つと期待されている。
今回、同研究グループは、社会的ストレスがあると報告されていた実験動物のマウスを用いることで、うつ様行動を誘発する社会的ストレスの詳細を調べた。まず、ケージ内における複数の雄に目印をつけて個体識別をし、行動を観察。これによって、同一ケージ内で飼育された4頭の雄個体間で社会的順位が形成されることが判明した。また、それら個体の行動を詳しく調べたところ、順位の低い個体が順位の高い個体に比べて顕著に高い不安様行動とうつ様行動を示すことも確認したという。
さらに、順位に応じて、うつ病の関連性が示されている脳内のセロトニン受容体などの遺伝子発現が影響を受けていることが判明したことから、これらのマウスに抗うつ薬である選択的セロトニン再取り込み阻害薬を投与したところ、社会的順位による行動と遺伝子発現への影響が緩和できることも確認したとする。
同研究グループは、今回得られた知見を活用することで、今後の対処法や治療法確立につながることが期待できると説明している。