南米チリにあるアルマ望遠鏡を使って地球から94億光年の距離にある銀河団内にガスを豊富に含む銀河を17個発見した、と国立天文台などの研究グループが2日発表した。遠方の宇宙でガスに富む銀河がこれほど多く見つかったのは初めてで、銀河団に含まれる銀河の進化を明らかにしていく道筋を示す成果という。
銀河団は銀河が数百から数千の単位で集まって形成されている。国立天文台の林将央(はやし まさお)特任助教と東北大学大学院理学研究科の児玉忠恭(こだま ただゆき)教授、東京大学大学院理学系研究科の河野孝太郎(こうの こうたろう)教授を中心とする研究グループは、アルマ望遠鏡を使って地球から94億光年 の距離にある銀河団「XMMXCS・J2215.9–1738」を観測した。研究グループはこれまでに国立天文台「すばる望遠鏡(米国ハワイ・マウナケア山頂)」でこの銀河団を観測しており、この銀河団に含まれる多くの銀河で活発に星が作られていることを明らかにしている。
林特任助教らは、今回のアルマ望遠鏡による観測では銀河団の銀河に含まれる一酸化炭素分子が放つ電波に着目した。星間ガスの大部分は水素だが、わずかに含まれる一酸化炭素分子は電波を強く放射するために星間ガスの存在を確かめたり、ガスの総量を推定する手掛りになる。
観測の結果、銀河団「XMMXCS・J2215.9–1738」の中で17個の銀河が一酸化炭素分子からとみられる電波を放射していることが分かった。これらの銀河はいずれもガスが豊富で、銀河団の中心部にほとんどなく、外側に多く分布していた。
研究グループによると、銀河の中で星が作られるペースは138億年の宇宙の歴史の中で大きく変動している。このうち約120億年前から80億年前までの期間は銀河の中で非常に活発に星が作られていたが、その後現在に至るまでは星形成活動は低下の一途をたどっているという。「星のベビーブームが過ぎ去って少子化が進んでいるようなもの」(研究グループ)だが、どのようなメカニズムで星の少子化が進んでいるのかは明らかになっていない。
研究グループは、94億光年の距離にあり、“星のベビーブーム”が起きている時代の銀河団で、ガスを豊富に含む銀河が一度にこれほどたくさん発見され、銀河の分布の違いが分かったのは初めてとしている。こうした分布の違いは、ガスが豊富な銀河は他の銀河より後に銀河団に加わったことを意味し、銀河が銀河団の中心部に引き寄せられる過程でガスを失い、星の形成が抑制されることを示唆しているという。林特任助教は「今後、銀河団に含まれる銀河の進化を明らかにしていく道筋を示すことができた」とコメントしている。
アルマ望遠鏡の正式名称は「アタカマ大型ミリ波サブミリ波干渉計」で、2011年に観測を開始した高い解像度を誇る電波望遠鏡。日本と米国、欧州などが国際協力でチリ北部にあるアタカマ砂漠の標高約5,000メートルの高地に建設した。直径約12メートルのパラボラアンテナ66台をつないで1つの巨大な望遠鏡のように運用する。日本は国立天文台が運用を担っている。
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