東北大学は、緩和ケア病棟で最期を迎えた進行がん患者の家族が経験した家族内の葛藤の実態について検証し、その結果を発表した。

Outcome-Family Conflict scale(8項目)を用いて家族内葛藤を評価した分布および家族内コミュニケーションの状況(出所:東北大学プレスリリース)

同研究は、筑波大学医学医療系の浜野淳 講師、東北大学の宮下光令 教授らの研究グループによるもので、同研究成果は、7月25日付で、アメリカ精神腫瘍学会・イギリス精神腫瘍学会・国際精神腫瘍学会の論文誌「Psycho-Oncology」のウェブ上で先行公開された。

がん患者の家族が経験する葛藤は、がん患者の苦痛や寂しさ、そして、介護者の負担感、抑うつ、悲嘆などに影響すると言われ、がん患者、家族のQOLに影響する可能性が考えられている。しかし、 がん患者の家族がどのような葛藤を経験しているのか、どのような家族に葛藤が多いのかということは明らかになっていなかった。

同研究では、緩和ケア病棟で最期を迎えたがん患者の家族が経験した葛藤の実態について検証が行われた。調査は、日本ホスピス緩和ケア協会に加盟している日本国内71医療機関の緩和ケア病棟で、2016年1月31 日以前に亡くなった患者の遺族を対象に行われ、458名が解析対象となった。その結果、「ご自身が本来果たすべき役割を十分にしていない家族の方がいると思うことがあった」、「患者様の治療方針に関することで意見が合わないことがあった」については、「とても良くあった/よくあった/時々あった」と回答した遺族が20%以上だった。

さらに、「遺族の年齢が若い場合」、「家族内で意見を強く主張する人がいた場合」、そして、「病気後に家族内でのコミュニケーションが十分に取れていなかった場合」に、家族内の葛藤が増えることが分かった。また、「病気前に交流がなかった家族と連絡をとるようになった場合」に、家族内の葛藤が減ることも分かった。これらの結果から、緩和ケア病棟で最期を迎えた進行がん患者の家族は、家族内で葛藤を経験することが少なくないことが分かり、家族の年齢、家族内の関係性やコミュニケーションの状況が、家族内の葛藤の有無に関係する可能性があることが考えられた。

これらの知見は、医療従事者などが、家族内の関係性やコミュニケーションの状況を理解して関わることが、家族内の葛藤の有無に気付くことに役立ち、進行がん患者の家族への支援、そして、患者、家族のQOLの向上につながると考えられる。ただし、今回の研究では、患者が亡くなった後に家族の記憶を頼りに回答してもらっている点、病気になる前の家族内の関係性やコミュニケーションの状況が評価できていない点、日本国内で行った調査のため、国や文化による違いが評価できていない点で限界があり、今後のさらなる展開は必要だということだ。