現在、中国では、「国家集積回路(IC)産業発展推進綱要」に従い、多数の半導体ファブが建設中あるいは計画中であるが、市場動向調査企業である台湾TrendForceは、中国のこうした半導体企業の工場稼働費用の分析を実施。その結果、現在建設中あるいは計画中の中国における半導体ファブが短期および中期的な損失リスクを最小化するためには中国政府からの補助金が必要であり、補助金なしでは工場運営が成り立たない可能性があるとの見通しを明らかにした。
中国各地で進められているファブの建設プロジェクトは、先端設備を入れる代償として数年にわたって高い減価償却費を負担する必要があるほか、半導体メーカーによる積極的な採用活動に伴い、製造に必要な人件費の引き上げも進んでいる。また、シリコンウェハの価格も、世界的にその需要が全体の供給量を上回っている状態から上昇傾向にあり、こうした複数の動きが絡まって、短期/中期的に、新ファブの建設および運営に、大きな財務リスクをもたらすことになるとTrendForceでは指摘している。
例えば、新たに構築されたウェハファブの工場稼働コスト構造は、原材料費、直接人件費(例えば製造ラインで働く作業員など)、間接要員(例えば研究開発担当技術者)および減価償却費に分けることができるが、28nmプロセスを採用し、月産1万枚で稼働する場合、減価償却費は製造業者の年間売上高の49%を占めることとなるという(既存の大手および中堅ファウンドリにおける減価償却費は、それぞれ年間売上高の約23.6%および25%を占める)。
また、こうした企業では、新しく建設されたファブが業界で重要な地位を獲得するために業界平均の2~3倍の給与を提供するなど、優秀な人材を獲得するための投資も必要となる。このような人件費の上昇には、製造に直接参加している人のほか、生産増強を陰で支え、顧客との関係を強化するために配置されるような間接的な人員にもおよび、TrendForceでは、(分析モデルで言及した条件の下で試算した)間接人員のコストは、既存の大手および中堅のファウンドリでは、それぞれ年間売上高の10.2%および17.5%ながら、新興企業では、年間売上高の34%を占めると推定している。
図 大手ファウンドリ、中堅ファウンドリ、新規参入ファウンドリの工場稼働費用の比較(2016年売上高に占める割合(%)で表示)。緑色は原価償却費、青色は間接人件費、赤色は原材料費・直接人件費を示す。中国の新規参入ファウンドリの工場稼働費用は、28nmプロセスを採用し製造歩留60%で初期生産能力1万枚/月で稼働するとの仮定に基づいて計算している (出所:TrendForce、2017年8月) |
さらに原材料に関しても、バルクシリコンウェハは、既存大手ファウンドリの売上高の約3割を占めているが、近年の需要増を背景に、中国の新興半導体ファブでは、そうした既存ファウンドリよりも2割ほど高く購入する必要があるようだとしているほか、新たにリクルートした技術者や作業員が、新たに立ち上げる製造プロセスを最適化するまでに多数のウェハが追加消費されるため、立ち上げ期間中の材料コストも上昇すると指摘している。
加えて、こうした新興ファウンドリは、すでに技術面で先行し、生産規模もより巨大な既存ファウンドリと競争をしなくてはいけないという課題も出てくる。仮に新興ファウンドリが、既存ファウンドリと同じ微細プロセスを提供できたとしても、歩留まり向上が遅れれば、顧客との交渉能力を下げることにもつながり、注文獲得のために、取引価格の引き下げなどを図る必要もでてくる可能性がある。そうなれば、黒字化が遅れることとなり、短期的/中期的に大きな財政損失を被るリスクが生じることとなる。
なお、国内の半導体企業が資金調達上の問題を抱えるファブ立ち上げの準備期間に役立つことを目的に、2014年に設立された中国の国家IC産業投資基金や、それに関連した政策では、地方自治体(人民政府)が産業に投資し、税制優遇措置およびその他の補助金を開発するよう促している。TrendForceでは、こうした取り組みが進むことで、国内企業はファブ立ち上げの初期段階における運用コストとリスクを削減することができるようになることから、長期的には国内の半導体サプライチェーン内で成長するチャンスを得ることができるような仕組みになる可能性があるとしている。