新潟大学は、同大学医歯学総合研究科の山崎和久教授、大学院生の佐藤圭祐氏らの研究グループが、理化学研究所との共同研究により、マウスを用いた実験においてPorphyromonas gingivalisという歯周病原細菌が腸内細菌叢を変化させ、腸管免疫をTh17優勢な応答にシフトさせることにより関節炎を悪化させるメカニズムを明らかにしたことを発表した。この研究成果は7月31日、英国のオンライン科学雑誌「Scientific Reports」に掲載された。

各群の関節炎症状の比較(出所:ニュースリリース※PDF)

歯周病は口腔内に棲息する細菌の構成が変化し、歯周病原細菌の比率の高まりに伴って歯周組織に炎症が起こって発症する。歯周炎は歯周病のうち歯を支える骨(歯槽骨)や歯と骨をつなぐ歯根膜という組織が破壊される病気で、近年は2型糖尿病、動脈硬化性疾患、関節リウマチなどの疾患のリスクを高めることが疫学的な研究で明らかになってきた。

歯周病とそれらの疾患の関連メカニズムとして、歯周病の局所(歯肉)から血行性に細菌が全身循環に侵入する、あるいは歯周組織の局所で産生された炎症性サイトカインが血行性に全身をめぐり、さまざまな組織や臓器にて炎症を誘発すると考えられてきたが、このメカニズムでは説明できないことも多かった。

各群の炎症マーカーと免疫応答の比較(出所:ニュースリリース※PDF)

研究グループは今回、関節リウマチのモデルマウスを用いて歯周病原細菌の影響を解析し、できるだけ実際の病態を反映させるため、細菌を口の中に投与する方法を用いた。2種類の歯周病原細菌(P. gingivalisとPrevotella intermedia)、およびそれらの細菌の懸濁に用いた基材のみを週に2回、5週間投与したのち、コラーゲンタイプIIを免疫して関節炎を発症させ、免疫開始から6 週間後に 関節炎の重症度、腸内細菌叢、リンパ節中の Th172の比率、Th17のIL-17 産生能などについて解析を行った。その結果、P. gingivalisを投与した場合にのみ、関節炎が重症化することがわかった。

また、腸内細菌叢を解析した結果、P. gingivalis投与群でのみ変動が認められ、その変化は細菌投与を中止した6週間後でも継続していた。 この細菌叢の変化に伴って腸間膜リンパ節におけるTh17細胞の比率が上昇し、IL-17 産生能も亢進していた。

歯周病の関節リウマチに及ぼす影響(出所:ニュースリリース※PDF)

以上の結果は、従来考えられてきた自己抗体の産生増強とは異なり、歯周病原細菌 P. gingivalis が腸内細菌叢を介して関節炎を悪化させるという新たな病原メカニズムを明らかにしたものだ。これは、歯周病と関節リウマチの新たな関連メカニズムを提唱するのみならず、歯周病とその他の疾患の関連メカニズム解明にも大きな示唆を与えると考えられる。

今後は、これらの現象が実際に歯周病の患者においても生じているか確認するとともに、歯周病治療が腸内細菌叢を改善することを明らかにすることが必要となる。口腔内にはP. gingivalis 以外にも全身の健康に悪影響をおよぼす細菌が口の中に存在している可能性があるため、そうした細菌を最先端の網羅的解析技術を用いて明らかにし、口腔細菌叢の健康度から腸内細菌叢の健康度、 ひいては全身の健康度を簡便に評価する方法の開発につなげたい意向だ。