大阪大学は8月1日、最新の生体可視化システムである「多光子励起イメージング技術」を用いることで、固定・染色などの工程を行わずに、生きた組織のまま大腸の深部まで観察でき、大腸がんをリアルタイムに診断できる方法を開発したと発表した。

同成果は、大阪大学 大学院医学系研究科の松井崇浩 特任助教、石井優 教授(免疫細胞生物学)、森正樹 教授(消化器外科学)らの研究グループによるもの。詳細は、英国のオンライン科学誌「Scientific Reports」(オンライン版)に掲載された。

多光子励起イメージング技術の原理 (出所:日本医療研究開発機構Webサイト)

現在、がんの診断を行う際には、がんが疑われる部位から組織片を採取し(生検、手術)、ホルマリンなどの薬品で組織片に化学処理を行い(固定)、薄く切ってガラスに貼りつけ(薄切)、色付けをしてから(染色)ガラス標本を作製し、顕微鏡で観察して診断を行っている。この方法は、まれに患者に不利益となる合併症が生じること、検査から診断までに時間がかかることが課題となっていた。

今回、同研究グループでは、多光子励起イメージング技術を用いてヒトの大腸組織の解析を行なった。多光子励起イメージング技術とは、近赤外線を当てるだけで生体組織の深部(表面から約120μm)の蛍光を検知し、組織の深い部位を傷つけることなく可視化できるもの。生体組織内に元来みられる蛍光シグナル(自家蛍光)と、イメージング技術で観察できる第二高調波発生という現象による蛍光シグナルを利用して可視化することで、固定・薄切・染色といった処理を行わずに、表面からリアルタイムで可視化する方法を開発した。

この方法によって撮影した画像は、従来のガラス標本による顕微鏡の画像と同様に大腸組織の特徴を描出することが可能だという。さらに、今回開発した方法では、撮影した画像の特徴を数値で表すことができ、画像から算出される数値を用いると、撮影した画像をがんと非がんに定量的に分類できることが分かった。

a:正常大腸組織のイメージング画像、b:組織を切り取って作製するガラス標本の画像(従来法)、c:大腸がん組織のイメージング画像 (出所:日本医療研究開発機構Webサイト)

なお、同研究グループは「今後、多光子励起イメージング技術を、内視鏡などの医療機器へ応用することで、低侵襲かつ迅速ながん診断の実現、さらに早期がんの診断や内視鏡治療の分野などの精度向上につながると考えている」と述べている。