京都大学(京大)は7月31日、患者や健常者などに頼ることなく薬の効能・効果や毒性を評価できるデバイス技術である、生体外ヒトモデル「ボディ・オン・チップ」の開発に成功したと発表した。
同成果は、同大 高等研究院物質-細胞統合システム拠点(iCeMS)の亀井謙一郎 特定拠点准教授、同大 工学研究科マイクロエンジニアリング専攻の田畑修 教授および平井義和 助教らの研究グループによるもの。詳細は英国の科学誌「RSC Advances」オンライン版に公開された。
抗がん剤などをはじめとする医薬品開発は、巨額の費用と時間が必要となっており、特にヒトで臨床試験を行う前の前臨床試験が問題とされている。同試験では、実験動物を用いた薬効評価・毒性評価試験などが行われているが、ヒトと異なる反応を示すことが多く、薬効や毒性の予測が困難であり、実験動物を使うことは、動物愛護・倫理的な観点からも問題となっていた。そこで、薬剤に対してよりヒトに近い反応を再現でき、動物実験を行わなくてもよい、新しい試験法の開発が求められていた。
同グループは、1μmほどの加工がができる微細加工技術を応用した「マイクロ流体デバイス」に着目。ヒトの体の中における血管網や組織の模倣ができる同技術を活用し、ヒト由来のがん細胞と正常な心筋細胞を搭載し、組織間を接続。直接心筋に与えても毒性のない抗がん剤をこのがん細胞に投与すると、がん細胞が死滅するとともに、その時にできる代謝物が心筋細胞に到達し、ダメージを与えることを確認したという。
今回の成果について研究グループでは、薬剤開発や化学物質全般の安全性試験だけでなく、iPS細胞などを用いることによって患者自身に適した医薬品の処方、個別化医療の実現化へ貢献できるとしている。