市場動向調査企業であるIHS Markitは7月26日(英国時間)、アクティブマトリクス有機EL(AMOLED)ディスプレイの生産能力に関して、韓国や中国を中心とした有機ELディスプレイ工場の増設・新設ラッシュが続いていることを受け、フレキシブル有機ELディスプレイの生産能力(パネル面積ベース)は、2016年から2020年の間に150万平方メートルから2010万平方メートルに拡大、年平均成長率(CAGR)も91%増という驚異的な成長ぺースとなるとの見通しを明らかにした。
2020年、有機ELにおけるフレキシブルの割合は8割に到達
IHSによれば、2016年は、プラスチック基板を用いてフレキシブル有機ELディスプレイを生産する工場の生産能力は、モバイルアプリケーションを対象としたディスプレイ生産能力のうち28%(パネル面積ベース)を占めていたが、今後4年の間に建設される第6世代(G6)およびそれ以前の世代(5.5世代など)の有機EL工場のほぼすべてがフレキシブル基板に対応できる見込みなため、有機ELパネルの全生産量に占めるフレキシブルパネルの割合は2020年に80%に達する見通しだという。
図 世界のモバイル機器向け有機EL生産能力(単位:1000平方メートル、左軸)の変遷予測。リジッドな(曲がらない)タイプ(棒グラフの緑部)とフレキシブルな(曲がる)タイプ(棒グラフの灰色部)の生産能力と、全体に占めるフレキシブルタイプの比率(折れ線。%表示) (出所:IHS Market) |
また、同社の調べによると、2016年から2020年にかけて、韓国、中国および日本で合計46のフレキシブル有機ELのファブが建設される見込みである。各ファブの生産能力は月産3万枚程度で、これらの新たなファブでのフレキシブル有機ELディスプレイパネルの生産能力の合計は、現在の生産能力の13倍に相当する1860万平方メートルに達するとしている。
IHS Markitのシニア調査ディレクタであるCharles Annis氏は、「これほどまでの新たなフレキシブル有機ELパネルの生産能力の増加は、スマートフォン向けの需要をこえていずれ供給過剰になってしまうのではないかとの心配が出始めている」と懸念を示す。
そのためIHSでは、2016年に有機ELパネルの供給はタイトであったが、今後、生産能力が増加するに伴い、徐々に過剰供給に陥り、スマートフォンの40%が有機ELパネルを採用する見通しである2020年には、供給は需要を45%も上回るとの見方を示している。
また、Annis氏は「有機ELディスプレイは、ハイエンドのスマートフォンに優れた画質と優れたフォームファクタ(パネルを折り曲げられるとかエッジまで画像表示できるなどの自由度)といった利点を提供するだろうが、有機ELパネルの生産能力が増加し、供給過剰に陥るにもかかわらず、その価格の高さが導入の妨げになるだろう」とも述べている。
現在、ほとんどの有機ELパネルメーカーの製造コストが高いため、平均的なリジッド有機ELパネルの価格は同等の液晶パネルよりも40%高いほか、フレキシブル有機ELパネルの価格は液晶パネルより100%高いと言われており、中・低価格帯のスマートフォンへの有機EL搭載はなかなか進みそうにない。しかし、生産能力が増強されるに伴い、その需要をさらに高めるためには、スマートフォンのほか、タブレットPCやノートブックPC、折りたたみ可能なディスプレイによる新フォームファクターなどへと市場を拡大していく必要があるとIHSでは指摘しており、フレキシブル有機ELパネルの生産能力の急速な増加とそれに伴うパネルの増加は、最終的にコスト削減、歩留まり向上、品質向上につながり、長期的にはより多くのアプリケーションへの普及を促すことにつながるとの期待を示しているが、その一方で、現在、中国、韓国、日本で建設が進められている46のフレキシブル有機ELファブは、幾多の困難を乗り越える必要があるとも述べている。