東京大学(東大)は7月27日、発酵や衛生分野などにおいて、現場で菌増殖を分析する際に有効な、その場で菌の増殖を蛍光で検出できる化学システムを構築したと発表した。
同成果は、東京大学先端科学技術研究センター 生命反応化学分野 岡本晃充 教授、同大学大学院工学系研究科 先端学際工学専攻の国立浩 博士課程3年生らによるもの。詳細は英国の学術誌「Chemical Communications」に掲載された。
菌の増殖量を常に適切に制御することは、人間の生活の維持において重要なプロセスであるが、菌の量は常に変化しており、これをモニターするにはサンプルから菌を取り出して、場合によっては一度培養した後に、吸光度観察や顕微鏡観察を行う方法がとられてきた。さらに詳細に調べるためには、菌が持っている核酸を抽出し、核酸増幅法によって増幅して定量する必要があるなど、測定者にとって手間がかかりすぎるとともに菌に触れる機会が多くなり、その結果、測定に時間がかかって結果がわかりにくなるという課題があった。
同研究では、目的の物質の有無を認識して蛍光発光を起こす人工核酸を新たに開発、現場で菌の増殖を蛍光で検出できる化学システムを構築した。同人工核酸は、蛍光物質を取り付けた数十塩基のRNAであり、化学合成によって作成される。菌の増殖機能に必須なリボソームと作用するネオマイシンBと結合でき、リボゾームがネオマイシンBと結合しているときは人工核酸からの蛍光が抑制される一方、ネオマイシンBが放出された後には人工核酸からの強い蛍光が現れることを確認。人工核酸と菌由来リボソームの間でネオマイシンBを取り合うことから、菌の量を人工核酸の蛍光の強度を通じて得ることができたと研究グループは説明している。
なお、同システムを活用することで、食品発酵や安全衛生管理などの、現場にて菌の増殖をモニタリングする必要がある場面で簡便に使える分析キットを作ることや、人工核酸の物質認識構造を変換することにより、さまざまな化合物や物質の蛍光定量にも応用することも可能だとという。