東京大学(東大)と名古屋大学(名大)は8月1日、独自のナノスケール熱伝導率評価技術を利用して、単層カーボンナノチューブ(CNT)がフラーレンの内包により熱伝導率の低下と熱起電力の上昇を同時に示すことを明らかにしたと発表した。
同成果は、東京大学大学院工学系研究科 児玉高志特任准教授、塩見淳一郎准教授、名古屋大学理学研究科 篠原久典教授、スタンフォード大学機械工学専攻 Kenneth E. Goodson教授らの研究グループによるもので、7月31日付の英国科学誌「Nature Materials」に掲載された。
カーボンナノチューブは優れた電気的性質や熱伝導性を有したナノ材料で、内部のナノスケールの空洞にさまざまな物質を内包させることで、カーボンナノチューブ固有の物性を制御することができる。これまでに、内包物質の影響によるカーボンナノチューブの電気的性質の変化を実証した研究は報告されていたが、熱物性に及ぼす影響に関してはナノスケールの実験試料に対する熱伝導計測が困難であることから明らかにされていなかった。
今回、同研究グループは、ナノスケールの材料の熱伝導率を評価するために必要な「サスペンション構造」を効率良く製作することができる独自の微細加工技術を開発した。サスペンション構造は、下方基板を除去して支持構造によって吊り上げられた構造をしており、周辺環境への熱散逸を抑制することができるというものだ。
測定対象がナノスケールとなる場合、さらにこの構造へ実験試料1本を橋渡しさせる必要があったが、試料1本のみを思いどおりに脆く壊れやすいサスペンション構造へ橋渡しさせることは極めて困難であった。
しかし同技術では、サスペンション構造の製作工程にあらかじめ実験試料を組み込むことができるため、これまで困難であった実験試料1本をサスペンション構造へ導入する作業工程を省くことが可能となり、ナノスケールの試料の熱伝導率計測デバイスを量産することが可能になった。
さらに今回の研究では、同技術を活用して、3種類の異なるフラーレンが密に詰まった単層カーボンナノチューブのバンドルに対して、熱伝導率や熱起電力の評価を行った。この結果、フラーレンが内包されていない空の単層カーボンナノチューブと比較して、フラーレンを内包させた試料は室温において熱伝導率が50%程度低くなることや熱起電力が40%程度大きくなることが明らかになった。物理シミュレーションにより、これらの物性変化は、内包させたフラーレンとの相互作用による単層カーボンナノチューブのひずみによって生じることもわかっている。
今回の成果は、異なる内包材料を利用することでカーボンナノチューブの熱伝導性を柔軟に制御できる可能性を示しており、同研究グループは、カーボンナノチューブの優れた熱伝導性を利用した熱機能界面材料や熱電変換素子などの工学デバイスの材料設計や性能向上に貢献するものと説明している。