名古屋大学は、同大学大学院理学研究科の鈴木孝幸講師、黒岩厚教授らの研究グループが、理化学研究所および東北大学との共同研究において、進化の過程で脊椎動物の後ろ足の位置の多様性が生み出されたメカニズムを解明したことを発表した。この成果は8月1日、英科学誌「Nature Ecology and Evolution」電子版に掲載された。
脊椎動物の背骨はたくさんの脊椎骨が1列に並んだ構造をしており、脊椎骨は形の違いで頭に近い方から頸椎、胸椎、腰椎、仙椎、尾椎と呼ばれている。我々の後ろ足は骨盤を介して仙椎に接続しており、現存の動物のみならず、既に絶滅した恐竜や首長竜、テトラポドピスに至るまで、あらゆる生物種において後ろ足は仙椎に接続している。しかし、なぜ後ろ足は必ず仙椎の場所に作られるのか、また、進化の過程でどのようにして後ろ足の位置が多様化していったのかは明らかになっていなかった。
研究グループは、この謎に関して、後ろ足ができる時の発生過程を調べれば明らかにできるのではないかと考え、体の発生過程を観察しやすいニワトリの胚を用いて後ろ足の発生メカニズムを詳細に調べた。その結果、胚の中でGDF11(ジーディーエフイレブン)と呼ばれるタンパク質が働き始めた場所が、将来の仙椎になることがわかった。さらに、GDF11タンパク質は仙椎になる組織の隣の組織(側板中胚葉)にも働きかけ、そこに後ろ足と骨盤をつくることを発見した。これにより、脊椎動物の後ろ足が、必ず仙椎の位置に作られているメカニズムが初めて明らかにされた。
次に、動物種間で後ろ足の位置の違いが生まれる仕組みを調べるために、脊椎動物の中で胴体が短いものと胴体が長もの、合わせて9種の動物においてGDF11の働き方を調べた。その結果、カエルやカメなどの胴体が短いものは、発生中にGDF11が働き始めるタイミングが早く、エミュー(鳥の仲間)やヘビなどの頭から後ろ足までが遠いものでは、GDF11が働き始めるタイミングが遅いことがわかった。
こうした結果から、進化の過程で後ろ足の位置が多様化していった原因は、GDF11というたったひとつの遺伝子の働くタイミングの違いで説明できることが判明した。このメカニズムは、地球上に存在するすべての足を持つ動物に適用できると考えられる。
この発見は、脊椎動物の形態の 大進化を解明するための重要な糸口になるとともに、我々の体の器官のうち、とりわけ後ろ足周辺の下半身全体の器官の位置を決める発生メカニズムの解明につながることが期待できるとしている。