名古屋大学は、同大学大学院生命農学研究科の榊原均教授、大薄麻未氏と理化学研究所(理研)環境資源科学研究センター生産機能研究グループの木羽隆敏氏らの研究グループが、植物ホルモンのサイトカイニン輸送が成長促進をコントロールする新たなしくみを発見したと発表した。この成果は7月24日、英国の科学雑誌「Nature Plants」オンライン版に掲載された。

道管を介した根から地上部へのサイトカイニン長距離情報伝達モデル(出所:ニュースリリース※PDF)

植物が外環境の変化に応答しながら成長を続けることは、安定した生産性を維持するために重要であるため、植物は根や葉など離れた器官間での成長バランスを調節するしくみを備えている。

植物成長の促進制御に関わる植物ホルモンである「サイトカイニン」は、地上部成長促進、葉老化抑制や器官間窒素栄養情報伝達、イネ粒数増などさまざまな作用を持つことが明らかにされてきた。サイトカイニンは、根と地上部間での情報伝達に関わる情報分子として重要な役割を担っており、根から地上部へのサイトカイニンの移動は、すべて前駆体の状態で道管内を輸送され、作用する場所で活性型に変換されて働くものと考えられてきたが、葉の大きさや枚数など、植物の複雑な形質を巧妙に調節するしくみについては、これまで明らかになっていなかった。

研究グループは、道管内を輸送されるサイトカイニン組成を解析し、大部分を占めるtZのほかにtZが微量に含まれることを見出した。つまり、サイトカイニンの根から地上部への輸送は前駆体と活性型の2種類の輸送形態があり、これらが地上部の成長制御において異なる役割を担っていることが明らかになった。具体的には、活性型の輸送は主に葉面積の制御に関わるのに対し、前駆体の輸送は葉形成の速さの制御も行っていることも判明した。

この成果により、窒素栄養などの外環境の変化によって地上部の成長促進を巧みに調節するしくみが明らかとなり、今後は、肥料投与を抑えた条件でも収量が減らないような環境ストレスに強い作物の生産技術開発への応用展開が期待できると説明している。

logS/WT接ぎ木植物、iptT/WT接ぎ木植物におけるサイトカイニン生合成経路の概略(出所:ニュースリリース※PDF)