国立精神・神経医療研究センター(NCNP)は、同センター第二精神診療部の竹田和良医師と精神保健研究所の中込和幸所長らのグループが、玉川大学脳科学研究所 松元健二教授のグループ、東京都健康長寿医療センター放射線診断科の下地啓五専門部長らとの共同研究において、統合失調症における内発的動機づけ障害に、外側前頭前野の脳活動の異常が関与することを脳画像解析により明らかにしたことを発表した。この成果は7月17日、神経系疾患、障害、症候群の専門ジャーナル「NeuroImage: Clinical」にオンライン掲載された。
人口の約1%の人々が罹患する精神疾患である「統合失調症」は、薬物治療の進歩により、幻覚や妄想などの症状はかなり改善できるようになった。しかし、意欲低下や感情表出の減少などの陰性症状、集中力・記憶力、計画を立案したり、問題を解決したりする力が低下する認知機能障害の治療はいまだ十分ではない。
認知機能障害は薬物治療による効果が現時点では十分ではなく、認知リハビリテーション等の心理社会的治療が有効であることが示されている。治療を確実なものにするためには、リハビリテーションの効果を増強する因子である動機づけのメカニズムを明らかにすることが必要で、統合失調症では各個人の内的価値に基づいた内発的動機づけが障害されていることが知られているが、それがどのようなメカニズムで生じるのかは明らかになっていなかった。
研究グループは、統合失調症における内発的動機づけ障害がどのようなメカニズムで生じているのか、内発的動機づけを引き出す課題を用いて、健常者と統合失調症患者の課題中の脳活動と行動の特徴を比較解析することで検証した。その結果、統合失調症患者では、内発的動機づけに基づいて適切に目的行動を調整する外側前頭前野の脳活動に異常が生じていることを発見した。言い換えれば、統合失調症患者は、外側前頭前野の脳活動異常により、内発的動機づけを適切な行動を行うための認知的制御に結びつけることができなくなっているといえる。
この研究成果は、内発的動機づけ障害の診断・治療、統合失調症患者の社会機能向上を促進する上で、きわめて重要な知見となる。一方で、同研究は認知リハビリテーションの適応と考えられる陽性症状が安定した患者を対象としており、すべての統合失調症患者に今回の成果があてはまるのかについて、さらに研究が必要であるとしている。
今後は、同施設で実施している認知リハビリテーションNEARによる介入が、前頭前野の脳活動異常を回復・改善しうるのか、その治療法としての有効性についてさらに検討するとのことだ。