甲南大学は、女王アリの精子貯蔵器官ではたらく遺伝子を特定したと発表した。同研究は、女王アリが10年以上もの長い間にわたり、体内で精子を常温保存できるメカニズムを解明する糸口になる可能性がある。
同成果は、同大学理工学部 統合ニューロバイオロジー研究所の後藤彩子 講師、基礎生物学研究所の重信秀治 特任准教授、山口勝司 技術職員、筑波大学の小林悟 教授、香川大学の伊藤文紀 教授、琉球大学の辻和希 教授との共同研究によるもの。詳細は、7月20日に「Scientific Reports」に掲載された。
女王アリの生活史。女王アリは羽化後まもない時期にオスと交尾する。オスは交尾後に死亡するが、女王アリは精子を腹部の中にある受精嚢に貯蔵し、長い寿命の間、産卵し続ける (出所:自然科学研究機構 基礎生物学研究所webサイト) |
女王アリは、オスから受け取った精子を「受精嚢」に貯蔵し、産卵時に必要な数の精子のみを取り出し受精させる。女王アリは多くの種で10年以上生存することが確認されており、精子を受精嚢内で、女王アリの寿命と同じくらい長寿化させているという。通常、動物の精子は交尾後数時間から数日で著しく劣化し、受精能力も低下するため、女王アリの精子貯蔵能力は特殊で、これまでにその分子メカニズムはまったく分かっていなかった。
同研究では、この受精嚢の機能に着目した。同研究グループはキイロシリアゲアリという種の女王を材料として用い、その受精嚢でどのような遺伝子が働いているかを、RNA-seq法と呼ばれる次世代シーケンサーを利用した技術で特定した。その結果、受精嚢のみで強く発現している遺伝子を12個発見することができた。これらの遺伝子の機能は他の生物の生殖器官ではまったく知られていないため、これらが女王アリの精子貯蔵に特殊化した機能をもつ遺伝子であることが期待できる。
今後、同研究グループでは、精子貯蔵に重要な役割を果たすと考えられる12個の受精嚢特異的遺伝子やその他の遺伝子からタンパク質を合成し、精子と一緒に培養する実験を行い、女王アリの長期間の精子貯蔵メカニズムの全貌解明を目指すという。
なお、同研究グループは、女王アリの特殊な精子貯蔵メカニズムが解明されることで、畜産や不妊治療などの現場で、精子をより低エネルギーかつ高品質で保存できる技術の開発につながる可能性があるとしている。