富山大学は、脂質キナーゼPI3K p85αを欠損した遺伝子改変マウスを用いて、腸管粘膜に存在する腸管マクロファージではインターロイキン-10(IL-10)の産生にPI3K p85αが抑制的に関与し、その結果、遺伝子改変マウスの腸管マクロファージではIL-10の産生が亢進し、炎症性腸疾患モデルマウスの病態が改善されることを明らかにした。
今回の結果から、PI3K p85α特異的阻害薬のような腸管マクロファージでのIL-10産生を亢進させる薬物は、炎症性腸疾患に対する新規治療薬として有用となる可能性が期待されるという。
同成果は、同大学和漢医薬学総合研究所消化管生理学分野の、林周作 助教と門脇真 教授らの研究グループによるもの。詳細は、英国科学雑誌「Scientific Reports」(オンライン版)に掲載された。
潰瘍性大腸炎やクローン病などの炎症性腸疾患(IBD)は、病因不明の慢性炎症疾患で、厚生労働省の指定難病の1つだ。現在、治療にはステロイドや、炎症性サイトカインであるTNF-αに対する抗体医薬などが使用されて早期寛解導入が図られているが、十分な病態改善が得られないことも多い。また、IBDの最も重篤な合併症である炎症関連大腸発がんを防ぐための長期寛解維持に有用な薬剤はない。そのため、炎症性サイトカインを抑制する作用機序以外のIBDの発症・病態形成機構の解明に基づく新規で有用な作用機序を有する治療薬の創出が求められている。
同研究グループは、腸管粘膜免疫系での恒常性維持に中心的な役割を担う腸管マクロファージに着目して、腸管マクロファージの機能制御を介したIBDに対する治療戦略の創出を目指して研究を行っており、これまでにPI3K p85αがマクロファージの機能制御に関与することが報告されていた。
今回、PI3K p85αを欠損した遺伝子改変マウスを用いた実験により、PI3K p85αを欠損した腸管マクロファージでは抗炎症性サイトカインIL-10の産生能が通常の腸管マクロファージに比べて著しく上昇しており、PI3K p85α欠損マウスでは野生型マウスと比較しIBDモデルでの発症が顕著に抑制されることがわかった。また、IL-10を高産生する(PI3K p85α欠損)マクロファージを細胞移入した野生型マウスを用いたIBDモデルでは発症が抑制されることを発見した。
同研究グループは「これらの知見はIL-10を高産生する腸管マクロファージはIBD病態を改善し、腸管マクロファージでのIL-10の産生を亢進させることはIBDに対する治療戦略として有用である可能性を示す」とコメントしている。