東北大学は、東シベリア北極域に広がる永久凍土の人類文化500年史を解明すると共に、現在の地球気候変動が過去にない速さで永久凍土生態系および地域社会に影響を与えていることを明らかにしたと発表した。

同成果は、東北大学東北アジア研究センターの高倉浩樹 教授(兼 同大学院環境科学研究科)、ジョージメイソン大学のS.クレイト教授、ライプツィッヒ大学のM.ウーリッヒ博士、ハンブルグ大学のJ.O.ハーベック教授、ロシア科学アカデミーシベリア支部永久凍土研究所のA.N. フョードロフ博士、三重大学の飯島慈裕准 教授、名古屋大学の檜山哲哉 教授らの国際共同研究チームによるもの。詳細は、エルゼビアの学術誌「Anthropocene」に掲載された。

ロシア連邦サハ共和国のユケチ・サーモカルストにおける景観変遷。森林が開墾・利用されていた1950年代から現在まで一貫して気候変化にともなう凍土融解による湖沼域の拡大が確認できる (出所:東北大学webサイト)

同研究では約7000~4000年前(完新世気候最温暖期)に始まる凍土融解によって形成された森林のなかの窪地(サーモカルスト地形)が、北極域における人類の環境適応文化の形成に決定的影響を及ぼしたことと同時に、その自然環境条件が現在大きく変動していることを明らかにした。

20世紀初頭までのシベリア先住民社会は狩猟採集・トナカイ飼育を基軸とする生業だったが、このなかの中央アジア起源の先住民サハ人は13世紀以降に、牛馬牧畜の導入に成功した。この成功の理由として、彼らがサーモカルスト地形の草原生態系を積極的に利用したことにあることは従来より指摘されていたが、サーモカルスト地形の起源や変化、そして住民の土地利用については不明だった。

そこで今回、同研究グループは、水文学・気象学などの自然科学と人類学を用いて、サーモカルスト地形の起源や変化、そして住民の土地利用について学際的にアプローチすることで、永久凍土の自然史と地域住民による土地改変を含む利用の長期的な相互作用を明らかにした。これによって永久凍土の動態的条件が人類文化の多様性に貢献していることが確認された

ソ連時代は新たに森林伐採による農業開発が加わることで凍土融解の増加をもたらしたが、深刻なものではなかった。社会主義体制崩壊後、顕在化し始めた地球気候変動は、過去にない急速な凍土の融解を引き起こしており、そのことによって森林荒廃・土壌崩落が発生しており、このまま気候変動が続けば地域生態系が大きく変わる可能性があるという。加えて、凍土に含まれるメタンの融解は全球レベルでの気候変動をすすめる要因となることも指摘されている。

東シベリアの永久凍土は、その分布の広大さゆえに、これまで十分な解明が行われてこなかったが、同研究はこの点において貢献するものとなる。また、気候変動が北極域の人間社会にどのような影響をもたらすのか、その適応策の構築も国際的に必要とされており、この点についても地域住民の認識を含む超学際的知見を提供するものとなっている。

同グループは同成果について、気候変動と地域社会の相互作用に対する、水文学・気象学と人類学を中心とする文理融合による全体論的アプローチが、人類文化史の解明と同時に現在の気候変動研究に貢献できることを示すものであるとコメントしている。